第六話 ステラを探せ!!
ステラがいなくなった。
メイドさんに買い物を頼まれたのでステラを連れて買い物に行こうとしたけど、メイドさんが買い物に行ってる間はステラを預かっておくと言ってくれたので預けた。だけど少し目を離した隙に居なくなっていたと言うのだ。
メイドさんは泣きながら謝ってくれたがそれどころじゃない。
どこに行ったんだ?
屋敷の中を慌てて探しているとアルゴ様とバッタリ会う。
「ルートヴィヒ、どうしたんだ? そんなに慌てて」
アルゴ様に事情を説明する。
「それは大変だ、皆で探そう」
屋敷中の人に声をかけてくれて、皆で探すことになった。
屋敷中をくまなく探したけど、見つからない。まさか、外に行ったのか? ステラはまだハイハイしか出来ない。外に行けるとは思えないけど···。
一旦皆屋敷のエントランスに集まる。
「うん、そういえばセシルの姿も見えないが。···まさか!?」
アルゴ様がセシル様の姿がない事に気付く。
たぶん、アルゴ様の考えと同じ可能性に思い至る。
セシル様がステラを何処かに連れて行った。
たぶんだけどこれが答えだ。問題は何処に連れて行ったかだけど。
「そういえばセシル様はよく街の外に一人で遊びに行ってるっぽいですよ?」
「外に? 街の外に行くには門を通らないといけない。門番が居るから引き留められる筈だが」
「たぶん、秘密の抜け穴があるんじゃないですか?」
「なら街の外にステラを連れて行ったという可能性もあるのか。しかし、なぜ街の外に行くのを今まで止めなかったのだシェイド?」
「いやぁ、子供の頃はこういう悪さはするものだと思っていて。暗くなる前には帰ってきていたし大目に見てたんですけどね。俺っちの判断ミスでした、すみません」
アルゴ様に頭を下げるシェイド。
「···こうなってしまったのは仕方がない。昼とはいえ外にはモンスターもいる。憲兵と冒険者にも捜索をお願いしよう」
アルゴ様、ケルヴィ様、オリヴィエ様はすれ違いが起きないように屋敷に残り、使用人は広い庭を探すことになった。
僕とマルタ、レベッカ、ダスマンは街を探しに行く事にした。
シェイドは憲兵や捜索の依頼をした冒険者と一緒に、街の外に探しに行った。
街の人々に赤子を抱いた男の子を見なかったか聴くと、数人の人から街の東の防壁側に向かって歩いている赤子を抱いた男の子を見たという情報を得た。
情報通り東の防壁側へと進む。しばらく歩いて防壁まで到着し、防壁に沿って歩いていると、木に隠れているが小さい子供なら入れる抜け穴を見つけた。恐らく、ここからセシル様は外に出ていたのだろう。
「ルートヴィヒ、どうする? この抜け穴を通って皆で外に探しに行く?」
マルタが抜け穴を見つめながら尋ねてくる。
「いえ、マルタはこの小さな穴じゃ通れないし、外はモンスターがいて危険です。僕一人で探しに行きますから、三人は抜け穴の事をアルゴ様達に伝えに行ってください」
「ルートヴィヒ一人じゃ危険よ!」
マルタだけじゃなくレベッカやダスマンにも引き止められるけど僕の意志は変わらない。
「すみません、ステラは僕の命よりも大切な妹なんです!!」
引き止める声を無視して抜け穴を通る。
引き止める声が後ろから聴こえるけど、かまわず進む。待っててステラ。
◆◆◆
――セシル視点。
メイドの隙を突いてステラを連れ出す事に成功した。
後は街の外の森の中にある秘密基地にしばらく隠しておけば、ルートヴィヒの慌てふためいている姿が見れる訳だ。
ふふっ、あいつの困ってる表情を想像するだけで笑みがこぼれる。
しかし、攫われたというのにステラはのんきに寝ている。そのおかげで簡単に攫う事が出来たが。
街の東防壁の抜け穴から外にでて平原を少し歩いた先に森がある。その中に秘密基地にしている山小屋が建っている。
森の中に入り、秘密基地に向かって歩いていると、草の茂みがガサガサと音を立てる。
音がした方を見て身構えるが、出てきたのはホーンラビットという危険度Fの気性のおとなしいモンスターだったので安心して構えを解く。
次の瞬間、ホーンラビットを追ってレッドベアが現れた。
レッドベアは危険度ランクDで凶暴な性格をしているモンスターだ。
普段はこんな山深くに居る筈のないモンスターである。
だから一瞬混乱してその場で立ちすくんでしまった。
レッドベアは動きの早いホーンラビットから俺にターゲット変更したみたいだ。
俺に向かって爪をなぐ。
我に返り鼻先寸前の所で攻撃を躱す。
一応木刀は持ってきているけど、ステラを抱えたままじゃ戦えない。
その場から必死に逃げるが、レッドベアの足は速い。
あっという間に追いつかれて再び爪が襲ってくる。
避けようと横にジャンプしたが、避けきれずに右肩を爪がかすめる。
避けた勢いで木にぶつかる。
「ぐっはっ!!」
ステラを守ろうとした結果背中から木にぶつかった。
ステラに怪我はないみたいだけど、前方にレッドベア。逃げ道は塞がれた。
ここまでか。せめてステラは守ろうとステラに覆いかぶさる。
だが、レッドベアは襲ってこない。
恐る恐る顔を上げると、レッドベアの後方にルートヴィヒが立っていた。
◆◆◆
防壁の抜け穴を抜けた先の平原の先に森が見えたので向かうと、ステラを抱えているセシル様が赤い熊に襲われている所に遭遇した。
慌てて地面に転がっていた石ころを手に取って赤い熊に向かって投げる。
見事赤い熊の頭に直撃し、僕の方へと体を向ける。
赤い熊は僕目掛けて突進してくるが、なんとか躱し、セシル様とステラに駆け寄る。
「セシル様大丈夫ですか?」
「ルートヴィヒ!? 何でここに!?」
セシル様は驚いているがそんな場合じゃない。
「セシル様、腰にぶら下げている木刀を貸してもらえますか?」
「どうする気だ?」
「僕が赤い熊と戦ってる内にステラを抱えて逃げて下さい」
「なっ!? 無茶だ。戦うなら俺が戦う。お前がステラを連れて逃げろ!」
「その怪我した右腕で戦える訳ないでしょ? 森の外にはセシル様とステラを探しているシェイドさんや憲兵、冒険者の皆さんが居る筈です。戦って時間を稼ぐので応援を呼んできて下さい」
セシル様は迷っているが、今にも赤い熊が襲ってこようとしている。時間がない。無理矢理木刀を奪う。
「さぁ早く逃げて下さい!!」
「くっ、すまん!! 絶対に助けを呼んでくる!!」
涙目になって叫びながらステラを抱えて走り出すセシル様。
獲物を逃がすまいと赤い熊が追おうとするけど行かせない。赤い熊とセシル様の間に割り込む。
「お前の相手は僕だ!!」
◆◆◆
――シェイド視点。
街の外に出て憲兵や冒険者と共にセシル様達を探していると森がある方から人影が近付いてくる。セシル様とステラだ。
セシル様達の所に向かうとセシル様は怪我をしていた。
「セシル様!? 何があったんですか!?」
「ルートヴィヒが!! 一人でルートヴィヒが戦っている!!」
泣きながら何か伝えようとしているが、興奮していて何を言っているか分からない。
「セシル様、落ち着いてい下さい。落ち着いてゆっくりと話してください」
「す、すまない。ルートヴィヒが俺とステラを逃がす為にレッドベアと戦っている。助けに行ってやってくれ!!」
涙を流しながら頭を下げるセシル様。
「分かりました、任せてください!!」
セシル様とステラは憲兵に任せて、五人の冒険者達と共に森へと向かう。
森に入ってしばらく進むと血の匂いが漂っている。
血の匂いの方へと進むと、胸に傷を負って血塗れになりながらも立っているルートヴィヒと木刀が左目から脳にまで突き刺さって死んでいるレッドベアがいた。
「···遅いですよ。あまりに遅いんで倒しちゃったじゃないですか」
血塗れになりながらも笑いかけてきた後ルートヴィヒの体は後ろに傾く。
慌ててルートヴィヒを抱きかかえる。
ルートヴィヒの顔を覗きこむと気絶していた。
ルートヴィヒを背負い、キプロの街へと戻りながら、俺っちは五歳という年齢でレッドベアを一人で倒したルートヴィヒに戦慄を覚えた。
◆◆◆
ふわぁ〜、よく寝た。
起きると屋敷は騒然としていた。
昨日の夜はこっそり魔法の訓練をしていて寝不足だったので熟睡してしまったのだけど、何でこんなに騒々しいの?
セシル様は右肩に包帯を巻いているし何事?
混乱していると、屋敷の扉から血塗れのルートヴィヒを背負ったシェイドが入ってきた。
え? 本当に何があったの?
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