第七話 親友
目が覚めると右肩に包帯を巻いているセシル様が泣いているのと、屋敷の扉から血塗れのルートヴィヒを背負ったシェイドが入ってきたのを見て混乱する。
私が寝ている間に何があったの!?
ルートヴィヒは屋敷にある医務室に運ばれた。
私は今メイドに抱かれ、事の成り行きを見ている。
そこで透明の瓶に入った緑色の液体をアルゴ様がルートヴィヒの胸の傷にかける。
すると血は止まり、深かった傷が薄っすらと浅くなる。
「アルゴ様! それは高価な回復薬じゃ!?」
「孫の命の恩人だ。このぐらい安いものだ」
シェイドの顔を見る限りとても高そうな薬だけど、気にした様子もないアルゴ様。
だがこれならルートヴィヒは無事だろう。良かった。
心配そうにルートヴィヒを見ていたセシル様も安堵の表情をする。
そのセシル様の頬をアルゴ様が手の平でぶった。
セシル様は頬をおさえている。
「お前が軽はずみにステラを連れ出したせいでルートヴィヒを命の危険に晒した。ルートヴィヒがいなければ、今頃お前とステラの命はなかったんだぞ。自分がしでかした事を重々反省しなさい」
なるほど、私が寝ている間にセシル様が私を連れ出して、危険に晒された所をルートヴィヒが守ってくれたのね。
正直セシル様のせいでルートヴィヒに命の危険があった事は許せないけど、セシル様はずっとルートヴィヒの事を泣きながら心配していた。今もセシル様は泣きながら謝っているし、反省している様に見える。
セシル様の声に反応してルートヴィヒが動く。
皆ルートヴィヒに視線をおくると、ルートヴィヒが静かに目を開く。
「ルートヴィヒ!! 大丈夫か?」
アルゴ様が目の覚めたルートヴィヒに声をかける。
「ここは? 確か僕は赤い熊と戦って······。はっ、そうだ。ステラとセシル様は!?」
ルートヴィヒは周囲に目をやり、私とセシル様が無事にいた事を確認すると、ほっと息を吐く。
「良かった、無事だったんですね」
ルートヴィヒは笑顔で私とセシル様を見る。
「ルートヴィヒ、今回の件は本当にすまなかった。セシルのせいでステラだけでなく、お前も危険に晒してしまった」
アルゴ様がルートヴィヒに頭を下げる。
「頭を上げて下さいアルゴ様。僕は生きていますし、ステラも無事です。だから気にしないで下さい」
「そうはいかない。お前は孫の命の恩人なのだ。何かして欲しい事はないか? 私にできる事なら何でもしよう」
「いえ、特に何もありません。そのお気持ちだけで結構です」
「······そうか。だが何か思いついたら言ってくれ。今回は本当にすまなかった。そして孫の命を救ってくれてありがとう」
アルゴ様がお礼を言った後、ルートヴィヒにセシル様が近付く。
「···ルートヴィヒ、すまなかった。俺はこんなつもりじゃ、ステラを危険に晒すつもりはなかったんだ」
涙目になりながらルートヴィヒに懺悔するセシル様。
「わかってますよ。だって赤い熊から必死でステラを守ってくれていたじゃないですか」
「···お前は怒らないのか? 俺はお前とステラを危険に晒したんだぞ」
「もし、ステラの身に何かあったらあなたを許してなかったでしょう。でも、結果的にステラは無傷で無事です」
優しく笑うルートヴィヒにセシル様は感情を爆発させる。
「俺はつまらない嫉妬でお前達を危険に晒したんだぞ!? どうして怒らない!? どうして責めないんだ!?」
「それはあなたが十分に反省しているからです。あなたが後悔しているのは今のあなたを見れば分かります。僕はそれで十分です」
「お前が納得しても俺が納得できない。何でもいい。気の済むまで殴ってくれてもいい。そうしてくれないと俺が自分を許せないんだ!!」
ルートヴィヒは「ん〜」と困っている。でも何か思いついたのかにこやかにセシル様に告げる。
「じゃあ僕と友達になって下さい」
「はっ?」
「友達になってくれたら許しますよ」
セシル様だけでなく、その場に居る全員も「えっ?」という顔をしている。かくいう私もそんな顔をしている。
「ふ、ふざけているのか。そんなものは何の罰にもならない。だいたいこんな事をした俺と友達になりたいと思う筈がない!」
「ふざけていませんよ。前々から仲良くなりたいと思っていたんです。でも今回ステラを必死に守るあなたを見て更に友達になりたいと思いました。もちろん、友達ですからこれからは名前は呼び捨てです。いかがですか?」
目元に溜まった涙を拭い、顔を赤らませながらセシル様は頷く。
「···それでお前が許してくれるなら」
「それじゃあセシル。今日から僕達は友達です」
握手しようと手を差し伸べるルートヴィヒ。その手を恥ずかしそうに握るセシル様。
その場に居る皆がにこやかにそれを見守る。
私は美少年同士の熱い友情とか大好物なのでもちろん笑顔。
この日ルートヴィヒとセシル様は友達になった。
◆◆◆
時が少し経ち、私は二歳になった。ルートヴィヒは七歳である。
朝、ドアをノックする音でルートヴィヒと私は目が覚める。
ドアを開けるとセシルの姿が。
「おはよう、ルゥとステラ。今日もいい朝だな」
「おはようございます、セシル」「おはようセシル」
服を着替えると洗面所に行って顔を洗い、歯を磨く。
その時もセシルは一緒だ。
食堂に行きカウンターで朝食を貰う。セシルも本館ではなくこの別館の食堂で一緒に朝食を摂るようになった。
マルタ、レベッカ、ダスマン、セシル、ルートヴィヒと私の六人で朝食を一緒に食べて、勉学室へと向かう。
使用人の技能訓練の授業以外はセシルも一緒に授業を受けるようになった。
席はルートヴィヒの隣。私の席はルートヴィヒの膝の上。
剣術の修練の打ち合いはルートヴィヒといつも組むセシル。
何をするにしてもルートヴィヒといつも一緒のセシル。
ルートヴィヒはセシルを呼び捨てにして、セシルはルートヴィヒの事をルゥと呼ぶ。
ルートヴィヒとルートヴィヒの妹である私以外には未だに上から目線な態度をとるけど、ルートヴィヒと私には優しい。
呼び捨てで呼ぶ事をルートヴィヒと私だけ許されている。私はついでにタメ口でも話しているしね。
この二年間で仲良くなり過ぎじゃね?
ルートヴィヒもセシルと一緒に居るのは楽しそうにしているし。
まぁ、美少年の仲良しこよしは見ていて飽きないのでいいのだけど。
そんなこんなでルートヴィヒとセシルは親友になった。
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