プロローグ妹編
私は異世界転生モノの小説が大好きだ。
何なら異世界転生出来るならしたいと思っている。
そして転生チートで魔法や剣なんか達人級になったり、名軍師や宰相になったりして周囲にはイケメンだらけ。所謂逆ハーレムだ。
そんな未来が欲しい。
だけど分かってる。そんな現実は絶対に来ないし、私は人生の負け組だと。
通ってる高校のクラスでは地味で目立たない底辺カースト謳歌中。
家では私よりも頭の出来も容姿も良い妹がいるおかげで空気扱い。
学校にも家にも居場所がない私。
唯一の楽しみは小説を読んで現実逃避する時だけ。
さぁて、学校も終わったし、本屋に直行だ。
今日は待ちに待った新刊の発売日なのだ。
人気本だから少し遠いが大手書店に向かうとしよう。
地下鉄で電車を待っている間、お気に入りのスマホゲームをイヤホンしてプレイする。
後ろがガヤガヤうるさい。ゲームに熱中出来ねぇだろうが。
ゲーム音量を上げてプレイする。よしこれで集中出来るぞ。
――ドスッ。
後ろから何か衝撃が。後ろを振り返ると鬼の様な形相をしたオッサンがナイフを私の背中に刺していた。
えっ、ナイフ?
キャーと誰かの叫びが聴こえる。オッサンはナイフから手を離し私をご丁寧にホームドアの外――つまり軌道へと落とした。
ちょっと待って。ただでさえ背中から血がドバドバ出てるのに更に電車に轢かれるとかどんだけ悲惨な最後を迎えさせるつもりだよ。
そうこう考えている内に電車の音がする。動かないといけないのに身体が言うことをきかない。
視界が歪む中電車のライトがやけに眩しかった。これが私が最後に思った事。
◆◆◆
目が覚めると銀髪の外人女性に抱かれている。
抱かれている? 自分の身体を見ると小さい手足。
ふむ、まるで赤ん坊だ。
······つまりあれではないか? 私がしたくて堪らなかった異世界転生!!
おぉ、刺された上に電車に轢かれて死んだ時は神様いねぇと思ったけど、居たんだね神様! ありがとう神様!
神様に感謝していると銀髪の女性は華やかな歓楽街みたいな所から廃墟みたいな街――所謂スラム街に入っていく。
ちょっと何で危険そうな所に向かっているの!
何か嫌な予感がする。
銀髪の女性は細い裏路地の奥のゴミ山にやってくると、ゴミを掻き分け赤ちゃん一人が入れそうな窪みを作った。
ま、まさか、そこに入れるんじゃないよね?
「申し訳ありません。しばらくのご辛抱を。必ず迎えに参りますので」
そう言って銀髪女性は私を窪みに入れ、上からゴミを被せる。
おう、言葉が分かる。外人なのに日本語を喋っている。
しかし、う〜ん。嫌な予感的中。転生したそばからなんかピンチっぽい。
銀髪女性は何かから逃げている様な慌てた様子だったし、何より私に対して敬語だった。
ならもしかしたらどこかのお姫様とかに転生したのかも、ぐふふっ。
日が登り日が傾き、一日が経ちました。
遅くね? しばしのご辛抱をというから我慢して待ってたけど。
ゴミ山の中だから臭いし、腹は減るしで私そろそろ限界よ。
だから泣きます。
「うぇぇぇえん、うぇぇぇえん!!」
結構大きな声で泣いてるけど気付いてくれるかしら?
なんか人気のない裏路地だったし気付いてもらえないかも?
このままじゃ野垂れ死に? 夢にまで見た異世界転生が実現したのに? 冗談じゃない! 死んでたまるか!!
さっきよりも大きな声で泣く。すると人の気配が。
ガサガサとゴミをどけている。
もしかして銀髪の女性が戻ってきた?
だけど、ゴミがどけられて見えた顔は銀髪の女性ではなく、金髪碧眼の美少年だった。
少し汚れてるし、痩せ細っているけど、間違いなく美少年。それも私好みの。
驚いた顔で私を見てる。そりゃあゴミ山から赤ん坊が出てきたら驚くわよね。
よし、ここは気に入られる為に極上のスマイルをプレゼント。
すると、美少年は優しく抱っこして笑いかけてくれる。尊い。美少年の儚げなスマイル尊い。
美少年スマイルにキャッキャッと喜んでいると、美少年は小さな身体で私を抱き上げ走り出した。
しばらくして見覚えがある場所にやって来た。
昨日通った歓楽街だ。
美少年は強面の男が番をしている店に入ろうとする。ちょっと大丈夫?
案の定強面の男に止められたけど、店からおばあさんが出てきて中に入れてくれた。
なんか執務室に通されておばあさんが美少年改めルートヴィヒの身の上話を聞いている。
そのミーシャって母親クズだな。こんな美少年を捨てるなんて。そして酔っ払いのオッサンもムカつく。
美少年は世界の財産だと言うのに怪我させて許すまじ。
そんなキツイ中で私を助けてくれたのか。この子マジ天使。
おばあさんと交渉してルートヴィヒはここで面倒を見てもらう代わりにここで働く事になった。えっ、ここって娼館でしょ? 大丈夫なの?
でも私を助ける為にまだ幼いルートヴィヒが働くとか感謝しかない。
おばあさんが傷薬と食事をとりに部屋を出ていったらルートヴィヒが倒れた。
ヤバい、顔色悪いじゃん。助けを呼ばないと。
「うぇぇぇえん、うぇぇぇぇえん!!」
とりあえず大声で泣く。するとおばあさんと綺麗なお姉さんがやって来た。
「ルートヴィヒが倒れてる。私はルートヴィヒをベッドに運んで治療するから、フリーデあんたは赤ん坊に乳をあげておやり」
「わかったわ。赤ちゃんに乳を与え終わったらルートヴィヒ君の所へ連れて行くわね」
「ああ、頼むよ」
おばあさんはルートヴィヒを抱っこして執務室から出て行く。
かくいう私はフリーデさんのオッパイをもらっている。
もらっているのだが、正直生温くて美味しくない。
ゲプッとゲップをするとフリーデさんは私を抱いて執務室から出てルートヴィヒが寝てる部屋へとやって来た。
「お母さん、赤ちゃんをお願い。私は仕事に戻るから」
「ああ、ありがとよ」
私はおばあさんの腕の中に収まり、フリーデさんは部屋から出て行った。
しばらくおばあさんと一緒にルートヴィヒを見つめていると、目を覚ました。
目を覚ましたルートヴィヒは私の食事が終わったのを聞くと一心不乱でパンとスープを食べる。
そんなにお腹空いていたのに私の食事の心配を先にするなんてマジ天使!
食事をしながらおばあさんから今後の事を聞いているルートヴィヒ。
娼館での仕事もするのに私の面倒まで見るとかこんな小さな子には無理ゲーじゃないの?
でもルートヴィヒは即返事した。
こんなに小さいのに私を守ってくれようとしている。何それ尊い。
そして私の名前をつけてくれた。星がいつもよりも輝いて見えたからステラとか洒落てる。
この日私はステラという名前と天使の様なお兄ちゃんを手に入れた。
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