第6話【分類考査】

 昭和59年2月、K少年刑務所移管。刑務所では囚人が工場ごとに振り分けられ、

そこでそれぞれ生産をして生活をする。入所したての新人は、今後刑務所内で

属する工場を決めるための分類考査という期間を経た後、適した工場に送られる

のだが、すでに組織暴力団関係者は弾かれているためにここには来ない。

25歳未満のその他犯罪者がここに送られるのだが、その時点で受刑はほぼ確定

する。分類考査ではIQやEQテストが行われ、また心理行動分析も行われる。

そのなかの一環として、晋は30代後半と見える女性監査人の質問攻めにあった。

「あなたは音楽をやったことで、このような事態になってしまったのでは? 

矛盾しているとは思いませんか」

晋は怯んだものの、自分のやり方が悪かっただけであって、音楽は何も悪く

ないのだと突き通した。また、過去に数人と女性と同棲の経験がある事に

対しても結婚に至らなかったのは何かあなたに原因があるのではないかと

聞かれたが、その都度上手くいかなかっただけだと答えた。

やがて質問は性的なものになってゆく。

「あなたは性に関心がありますか?」

「男性的機能はありますか?」

「自慰行為は1日でどれくらいしますか?」

無表情から次々に繰り出させる質問に、

晋は恥ずかしさを覚えながらも答えていたが、

「セックスはあなたにとってどうでしたか?」

というトドメの質問に女性監査人の言葉に思わず噴出すと、

男の監査人が真面目に答えなさいと叱咤された。

あちらにとっては、大事なことなのかもしれないが…、

なんともおかしな尋問だった。

 3月になると、2週間の新入訓練というものが行われた。

小グループに分かれて所内見学をするものだった。

晋はとくに工場に興味を持っていた。分類考査の

結果が出れば自分もどれかに振り分けられる。

工場は1工場から11工場まであり、それぞれで異なる仕事を行うのだった。

また図書夫、計算夫、舎内掃夫という第二分類と呼ばれる特別な仕事を

行う集団もある。これらは分類考査でよい結果を残した者、

つまりは賢い者が主に振り分けられるのだそうだ。他には理容、

家畜、炊場などがあり専門学校のような印象を受けた。理容か、

まあどうせ皆坊主なのだからと思っていたが、後に等級によって

髪の長さが変わってくることを知った。

等級は、下は4級、上は1級。刑期が長く、

極めて真面目な一部の受刑者が1級に上り詰めるのだが、

多くはそれまでに刑期を終えて出てゆくために、1級はごく僅かだった。

入所したての晋はもちろん丸坊主だが、1級に至っては整髪するだけの

長さを許されている。そして等級の違いは工場での収入の多さにも

関わってくるらしい。 もちろん1級がもっとも高い賃金で働いているのだが、

4級はひとつき千円に満たない低賃金なのだ。

今まで金を持て余していた晋にとって、それは信じがたいことであったが、

後に刑務所内でも外での蓄えが使えるのだと知るのだった。

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