第4話【留置】
「ふざけるな!俺たちがやってきたことを水の泡にする気か?」
警察署に面会にやってきたメンバーらの罵声が響く。
音楽関係者もみんなやってきた。非難されることは当然であった。
しかし晋は、「世の中にはよ~、悪い奴がいるから良い奴がいるんだよ。
俺はただ、その前者ってわけよ」などと吹いて聞かせて、
自分を奮い立たせていた。どんなに悪く言われようと、
晋はメンバーや音楽を愛していた。しかし、身も心も疲れきっていたのも
事実だった。放蕩で快楽を貪っていたその影にも、
やりきれない出来事はいくつもあった。晋はどうしようもない寂しがりだった。
しかし、そのツケが回ってきた。そして下った判決は有罪、
検事からの2年6月の求刑に対し、懲役2年の(未決通産90日)の刑が確定された。
初犯で成人したばかりの晋に、誰もが執行猶予が付くと思っていたなかでの
実刑判決だった。これで当分音楽も出来ず、せっかく掴んだデビューの
話もなくなり、誰にも顔向けが出来ない。何も考えられなくなっていた。
田舎から血と墨の匂いを纏った父親が判決を見に来ていた。判決が下った
瞬間、父親の目は真っ赤に染められていた。彼は晋が初めて拘置された日に、
警察署に乗り込んで異を唱えていた。売るほうが悪いのではなく、
買う奴がいるから売るのだと。 裁判を終えた後、父親曰く、
「落ち込むな。人間の底辺を見てこいや。
逆に言うたら金出してもいけんとこぞ」。
当初、父は有能な弁護人を雇って晋を絶対に救い出すつもりだったという。
晋は助け出して欲しい思っていたのだが、父親の判断は間違っていなかったのだということを後に思い知ることになる。
署では刑が決まった被告である晋に、「万歳!垢落ちおめでとう」と、
署の人間は拍手をした。晋には理解に苦しむ光景ではあったが、社会的には
さしずめ悪を成敗したということなのだろう。そんなに悪である実感は
なかった晋にとってはなんとも歯痒い歓迎だった。
拘置所へ行くことが決まり、留置所でお世話になったやくざの親分の
金さんが、最後に豪華な弁当を差し入れてくれた。
「お前、若いんだから元気出せ!娑婆へ出たらうちへ来な。お前気に入ったぞ」
と、ありがたい言葉をかけてくれた。しかしながら父親の仕事柄、そこがどれほど過酷で損な世界であるかは十二分に知っていた。父親の元にはいつも危険な人間達が集っていたために、晋もその悶着に巻き込まれることも多々あった。例えば、
実家の玄関先での日本刀抜刀事件。人間の体を斬るときは、テレビや映画で見る
ような「ズバッ」という音はしない。鈍く重い「ドン」というような音がして、
閃く刃は次の瞬間にはもう真っ赤に染まっていることを知る人間は、
現代ではわずかであろう。兎にも角にも、晋は落ち込むほかなかったのだった。
そして同年12月23日、F拘置所移管が決定した。
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