第14話 魔王さま、翔ぶ。
ギュィイイン! ドカン! シュゴー! ドダダダ! バシュバシュン!
ドゴォン!
人造の機兵があらゆる兵器を解放し、さまざまな攻撃を放つ音がいろいろとする。
神話や伝説をモチーフとした玉座の間の雰囲気には似つかわしくない、機械音や射撃音がひっきりになしに続く中、その油圧と音圧に負けまいと、
結果的にはロック・アレンジにしておいて正解だった。ここまで来たらエレキギターを加えたいくらいだ。
そう思った時、死ぬ程エフェクトをかけたスケルくんのバイオリンが唸りを上げた。ギャウゥゥン! って感じの。この骨、ホント有能。
戦闘効果音(SE)を潰さないように、しかし背景曲(BGM)としても機能するように微妙な塩梅を維持する。
どんな音にも特有の音域がある。特に人間の耳が聞き取り易い、 300 から3000Hz(ヘルツ)の間でお互いの干渉を抑え、それぞれの音が最も引き立つバランスを目指す『イコライジング』に、世の音楽家たちは苦労している……。
まあ、その辺の理屈はもうどうでもいいのかもしれない。
魔法が満ちる世界で、人間の常識や音楽理論にあまり意味はないのかも。
この世界においては、耳で聞こえる以上のものを聴けるし、音で伝えられる以上のものが伝えられる。だから今まで、耳で聞くだけの音楽、は、あまり発展してこなかったんじゃないだろうか。
なんとなく、世界の仕組みを一つ知ったような気分になる。
そんな考えに浮かれながら指揮を続けていると、楽団の皆の、何やら緊張した面持ちにも気付いた。
「(タカシ! タカシ! 曲が終わっちゃう!)」
注意を引こうと翼をぱたつかせるハル子の口の形が、曲が終盤に差し掛かっている事を伝えた。ワンコーラスの終わりだ。
はっとして振り返る。魔王と戦機兵の戦いの決着はまだついていない。
それどころか、戦機兵がやたらすごい変形を始めてる。装甲がぐわっと開いて、内部構造から光が漏れ出し……。
『対特級魔族カウンターシステム起動 コード トリプルBプロトコル。残存エネルギーを全て魔力に変換 リミッター解除 追加装甲パージ 稼働限界 百八十九秒』
合成音声丸出しのアナウンスが響いた。
なんか凄いプログラムを発動したらしい。今時のロボットは、とりあえず機体の限界を超えるシステムを積んでいて当然だよね。
「スケール変更、ノート上昇!
エウリュデオンのアナウンスに引っ張られた俺はそれっぽく叫んでしまった。俺はどうしても、その場の雰囲気の影響を受け易い。
同時に
楽団員たちは驚いていた。念の為に色々と用意してあった曲案だが、これまで殆ど手をつけていないものだったからだ。しかし、この戦闘にはこの曲しかない。そう確信していた。そして、今のお前達なら
俺からのモンスター達への挑戦だった。
挑発するように笑う俺の表情を読んだモンスター達から迷いが消えた。
リピートするはずだった譜面を強引に変更し、次の曲へと雪崩れ込む。こんな真似はリアルタイムのライブ演奏でしかできない。
魔王イアレウスのマントがめくりあがり、背中から左右非対称の禍々しい五枚の翼が現れ、機兵エウリュデオンの背面及び腰部、脚部ブースターから灼熱の光が迸る。
飛ぶ気だぞこいつら。
一曲目のフィニッシュで高まった勢いそのままに。
魔法で飛翔した魔王と、バーニア機動の機人兵の空中戦が始まる。
俺達にとっても、第二ラウンドだ。
―――――――――――――――――
ホバー機動でスライドしながら、なんだか良く判んないビームを乱射し、ついでに背面から大量のミサイルを放つエウリュデオン。火力やばい。
魔王さまを外れた攻撃が天井や壁に当たり、次々と爆発して瓦礫が俺達に降り注いでくるのもヤバい。演奏結界の強度を信じるしかない。
機人兵の頭部がビカッと光り、一瞬の間を置いて着弾地点が爆発する。
たぶん見た事あるやつだ。
光線と爆発を掻い潜り、華麗に飛翔する魔王の姿はまるで燕のよう。時折、魔法の障壁で弾いたりもする。流石の魔王と言えども切れ間ない飽和攻撃を正面から突破するのは難しいようだ。
早いテンポの変拍子。ティンパニ、打楽器で戦闘の緊張感を表現しつつ、ビオラ、フルートによる高音域の軽やかなフレーズで、自在な浮遊感と、壮絶な撃ち合いのスピード感をお届けする。
下から湧き上げるようなベースと和音を繰り返し、ルート音を徐々に繰り上げて転調。爆風吹き荒れる戦いの白熱と、
「ははは、はははは!」高笑いながら飛ぶ魔王さま。
おノリになられているようにで何よりです。
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