第4話 彼女と会話
2年B組に、よく朝礼で倒れる女の子がいる。
佐伯知夏(さえき ちなつ)優等生で学年でも有名だが、目立つ子でもなくラナにとって存在しているくらいの同級生だった。
2年の初めの朝礼から、体育館に響き渡るバーンという音がして最初はみんな貧血だと思って気にもとめていない。
体育の授業で怪我をした子が出て、手のあいていたラナが保健室に絆創膏と消毒液を借りに行ったら、保健室の先生は、他のクラスに体調の悪い子が出て、呼び出されていた。
あまり保健室に来ないラナは、おろおろ保健室をあっちこっち絆創膏と消毒液を探していたら、カーテンのひいたベッドが開き、蒼白の佐伯知夏が顔をのぞかせて、ラナはぎょっとなった。
「絆創膏と消毒液なら、先生のテーブルの横の棚から2番目の応急ボックスにあるよ」
とても小さな弱々しい声だった。
「ありがとう。分からなくて・・・佐伯さん、大丈夫?」
棚から絆創膏と消毒液を出してラナが振り向くと、まだ佐伯さんがこちらを見ている。
間が悪くなり、ラナは思わず話しかけていた。
「いつも朝礼で倒れてるけど、その、貧血とか?」
しどろもどろになったが、佐伯さんは嫌な顔もせずに静かなに微笑んだ。
「違う、私、過換気症候群なの。毎週、うるさくて、ごめんね」
佐伯さんは、寂しそうに笑った。
「か、かんき?しょうこう、ぐん?」
メンタルの病気らしかったが、ラナは疎く分からない。
「過呼吸。過度のストレスで呼吸が出来なくなって、血中のアルカリ性が増えて、呼吸をし過ぎて、呼吸を吐けなくなる症状」
優等生とだけあって、スラスラと説明してくれたが、ラナにはよく分からなかった。
「何か、辛そうだね。呼吸なんて意識した事ないから・・・」
ラナがまごついて言うと、佐伯さんが笑った。
「カモメ君の言うとおりに、素直な子なんだね、田中さんて」
突然、カモメ君の話が出たので、ラナは驚いた。
「えっ?」
絆創膏と消毒液を取り落としそうになるラナを見て佐伯さんが少し笑う。
「学校にも友達にも内緒にしているけれど、1年生の頃から私達、付き合ってるの」
思わず、えっ!と保健室中に響く声になった。
「別に最初は、隠してたわけじゃないんだけどね、カモメ君は変わり者呼ばわりされ始めるし、私は朝礼で倒れて有名になるしで、内緒にする事にしたの。周りも親もよく思ってないし」
佐伯さんの「周りも」がラナを含めて、カモメ君を変わり者扱いする人間だと分かり、ラナは後ろめたくなった。
「何だか、話しに付き合わせてごめんね」
佐伯さんは、それだけ言うとラナを見送った。
無意識のうちに、ラナもカモメ君や毎朝朝礼で倒れる佐伯さんを違う目で見ている。
何だか、そんな自分が佐伯さんの消えそうな笑顔の前で嫌になった。
無意識に、人は自分には分からない、理解が出来ない人を排除しようとしている。
それも悪意なく。
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