第36話 戦勝報告

 ココがデサリアから兵を連れて来る前に、俺達は村へ引き返す。

 エレン達を見られて話が拗れるのも面倒だし、ココには通信連絡機で伝えておく。

 ココは機転を利かし村からレオを連れていったらしい。

 俺はそういう細かい配慮がまだまだ不足しているな。


 村に着くと前に建てておいた市民ホール化した建物を改造する事にした。

 俺は正直信用しても良いと思っているが、この村で生活する為にも全員の許可は貰いたい。


 簡易的に牢獄のようなものを作り上げる。

 とはいってもあまり罪人として扱いたくないのもあるので、脱出防止の柵は最低限にし魔法付与などで出られなくする仕様にした。

 本人達も納得してくれたし、こちらも村に連れ帰った以上はそれなりの待遇で待ってもらおう。



 牢獄が完成した頃ココ達からも連絡が来た。

 どうやらレオが話を付けてくれたためスムーズに進んでいるらしい。

 ただ物資を運搬するにも既に広がった森を通らないといけないため、輸送要因として俺も協力しに戻る。


 置いていかれた物資は全てデサリアに渡すつもりだ。

 食糧や装備、衣服や建材など資源が沢山残っており、帝国には良いダメージになっただろう。


 俺とココはその日の内に全てを運ぶのは無理だと判断し、食料と高価な物資だけ運搬する。

 その他は別日に運びたいと思うが帝国が戻ってくる可能性も考えられるので、陣の撤収を済まし魔物や動物に渡っても問題ない物資はとりあえず置いておくことにした。


 とはいっても俺達が作った簡易砦があるため、そこに詰められているのだ。

 結界魔法で砦を含む作成した土地に侵入できないようしておく。


 そして撤去した陣の後にはいつも通り森を生やす。

 もう少し広げたいが、帝国兵が戻ってきてもその変わりようでちょっとの事では進んで来ないだろう。

 偵察に長けた人間は今俺の村にいるのだから。


 デサリアに物資と兵士を送り届けた時には既に空が赤みががっていた。

 流石に疲れたし帰りたいのだが、今日中に領主にも話をしないといけないとレオに釘を刺された為領主邸に向かう。

 そこに行くまで英雄のような扱いをしながら付いてくる兵士たちは、正直騒々しかった。


「ビックスさん、とりあえず重要な物資の搬入は終わりました。残りは後日送り届けますね」


「さも当然のように話をしてきてるのだが、君は自分のやったことがわかっているのかね?」

 呆れ顔のビックスは疲れた顔でこちらを見る。


「帝国が侵入できないよう森を広げ、更に敵の陣を奪取、物資をほぼ手に入れ、それが君たちだけで行われた。僕は国にどう説明しようかね」


「戦争がとりあえず落ち着きそうでいいじゃないですか、ただ俺達を利用しようとしない事を伝えてくださいよ。敵対したくないですから」


「それはこちらのセリフだよ。強欲な貴族連中から横やりやらなんやら、今から考えるだけでも……はぁ」

 前線で権力者たちとやり合う中間管理職の様な姿をしている。

 落ち着いたら慰労してあげないとな。


「それで、改めて礼を言わせてもらう。今回の一連の作戦でこの街の安全は格段に向上した、帝国もそうそう手出しできなくなるだろう。このまま停戦まで持っていけたらいいんだが」


「そこはお主の手腕の見せ所じゃの。馬鹿な奴らはこれを機に攻めろとか言い始めそうじゃがな」

 レオもその目で見て来たのだろう、同情した目でビックスを見る。


「近隣の村から徴兵した者は即刻任期満了になるようこちらも手配する。本当に物資に関してはこちらが全て頂いてもいいのか?」


「我々は森で手に入るもので困りませんし、必要ならデサリアから購入してますから。少なくとも食料や装備は今すぐ必要にはなりませんし、村人達に早く家族と会わせてあげられればそれで」


「ならありがたく頂こう。最近は戦争の準備とはいえ領民には苦労させたからな、少しでも分け与えられたらと思っていた、感謝する」

 きちんと領民を思い行動出来るビックスだからこそ全て任せられるのだ。

 自分の懐ばかり気にする相手なら、こんなことはしない。


「それに森の調査によって以前にも増して様々な資源が出来たと報告が上がってな。魔物や植物など多種多様で冒険者たちも少しずつ戻ってきているよ」

 これでイザベルさんも少しはましな生活が出来るかな。

 レオは顔を出しにくいかもしれないが、俺は改めて挨拶に行こう。


「今は何も返せないが、必ずこの恩は返させてもらう。重ね重ね、ありがとう」

 立ち上がって礼を言うビックスは、立派な領主だと認識するに足る男だった。



「さあ、帰って飯でも喰うか!」

 街から出た俺はココとレオにそう言って、気だるそうに伸びをする。


「色々あったが、上手く行って良かったな」

 ココは二っと顔を緩ませる。


「まだまだこれからやる事は沢山あるさ、とりあえず今日はゆっくり休もう」

 ジェットの魔法を使い、俺達は村へ帰還したのだった。

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