第32話 デサリアの領主邸
ジャン達の村を含めたデサリアまでの村はほぼ全てこちらの提案を飲んでくれて移住となった。
新たに500名程の村人が増える訳なので、村の拡大の為に森の拡大は俺とマーズ達村人数人で行っている。
そのせいか最近リュウは村で親分と呼ばれているらしい。
元々男手が不足しているのもあるが、次々と家を作り上げ皆の生活の場を生み出す姿を見た子供達がそう呼びだした。
最初はリュウも子供たちのリーダーとして笑って受け入れていたが、少ない男たちやそこそこ動ける老人達にまで親分と呼ばれて困惑気味なようだ。
それでも村人の信頼を勝ち取れるほどの働きをしているからだろう。
俺はリュウの事を誇らしく思っている。
「さあそろそろデサリア側は終わりかな?」
いくら柵があるとはいえある程度の安全マージンを取りたいので、村から30キロほどで拡大を止める。
新しく生えた木を使い魔物避けの柵を作り街に魔物が寄らないようにすれば完了だ。
早速レオに連絡する。
今では主要人物に通信用道具を配っている。
リュウはここ最近一番の功労者となっている為、落ち着いたらお願いを聞いてやらないとな。
「レオ、デサリア側の植林を終えた。報告の為にこちらに来てもらえるか?」
「流石だ、すぐに向かう。ルビーに連れて行ってもらってもいいか?」
「ああ、そうしてもらってくれ」
この距離を短時間で移動できるジェットの魔法は流石にレオでも使えない。
俺達加護持ちの家族だからこそ出来る規格外の魔法なので、家族には申し訳ないが人働きしてもらう。
俺が一通り仕事を終え休憩しているとレオとルビーがやってきた。
「ハルキお疲れ様」
「ルビーわざわざすまないな、レオもありがとう」
「ここまで移動している間見たが、本当に森が広がって居ったな。今更驚きもしないが」
元々森を抜けるまで1時間程度かかるが、更にそこから同じくらいの距離を広げたので知らない人から見たら天変地異が起こったようなものだろう。
いきなり森が生まれる、それも何百キロの範囲で。
目論見通り早速魔物や動物たちの生息区域が広がっているようだ。
元々住処が安定しない低ランクの魔物が広がった森に住みつき、それを狙う強者もちょこちょこうろつき始めたらしい。
それ以上に驚いたのは生物の生命力だった。
俺達は木を植え広げていたのだが、魔物達の移動や環境の変化で森の様々な植物が広がる森にも生え始めていた。
中には希少な薬になる≪ゲッケイ草≫や高級果物≪王桃≫の木などそこら辺ではお目に掛かれないものまで増えている。
俺達は森の中に住んでいるので何度も見つけた事があるが、その生息地が広がるという自分達でも育てられるという事だろう。
今後の村の生産に使えそうだ。
「それでレオ、報告なんだが。領主には会えそうか?」
「それは儂に任せてくれ、ただハルキも同席してもらえんか?流石に一度も顔を合わせないままの訳にはいかなくてな」
「ああ、俺もここまでやって無責任になんかしたくないし、行くよ。ルビーも同行頼む」
「勿論よ、敵対する相手が近くに居ても困るしね」
頼りになる家族に支えられ、俺は少しずつ変われている。
村人との交渉や領主との面会など以前の俺では無理だったろうし。
俺達はデサリアの街に入り、領主と取り次いでもらうことになった。
「大きな門! 大きな庭! 豪邸! 流石だな」
街の中心に建てられた屋敷は俺の想像する貴族の家のイメージのままだった。
前の世界にも豪華な建物は沢山あったが、この世界に来て周りとは明らかに格の違う屋敷を見て権力というものの大きさを感じる。
「はっはっは、ハルキは珍しく見えるのか。儂からしたらハルキの屋敷の方が凄いのだがなあ」
俺の家は前の世界のテクノロジーがそのまま残ってるからな。
でもこの世界で作られたからこそこの屋敷の価値があるのだろう。
「お待たせしてすみません、私は執事をしているカリーノといいます」
正装に身を包む老人は礼儀良く挨拶をする。
「出迎えご苦労カリーノ、こちらは村長のハルキと家族のルビーだ。儂は今このハルキに仕えておるよ」
「仕えてるつもりはないんだが……カリーノさん、ハルキと申します。こちらはルビーです」
そう言うと俺とルビーも頭を下げる。
「ハルキ様、執事などに頭を下げないでくださいませ。ビックス様がお待ちです、どうぞこちらへ」
そういうと屋敷の中に案内される。
流石は貴族の屋敷だ、メイドらしき人物が仕事をしている。
こちらに気づき頭を下げてくれるのだが、そんな大層な人間でもないのだからやめて欲しい。
苦笑いしながら会釈し返す。
「ハルキ様は変わっていらっしゃいますな」
執事のカリーノは少し失礼な言い方をしてきた。
「そうだろ?そんなハルキだからこそ儂は一生を懸け仕える事にしたのだ」
レオも満足そうに話す。
「そんな変でしたか?礼儀とかなっていなかったら申し訳ありません」
俺はこちらの礼儀作法を知らないので不味いことしたのかなと不安になっている。
「いえ、そうではなくてですね。私のような執事、それに屋敷のメイドなどにまで挨拶を返すお客様など、少なくともハルキ様が初めてでございまして」
そういうと少し嬉しそうに話をしてくれた。
「いや、俺は別に……」
「全てわかった訳ではありませんが、私はハルキ様の人柄をそれだけで少し知れた気がします。レオ様が慕うのもわかります」
「カリーノは優秀だから、中々人を褒めないのだぞ?それに客として扱ってる儂らと世間話などするカリーノも初めてみた」
レオがまた機嫌よくなり話をしている。
俺は別に何かしたわけじゃないんだけどなあ。
廊下の先にある大きな扉の前でカリーノは止まり、扉をノックして入る。
「やあ、私はビックスだ。初めましてハルキ君」
部屋の中に居たのは、まだ20歳くらいの美男子だった。
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