第30話 一触即発

 俺達は数日で途中にある村にたどり着いた。

 作業しながらのペースとしてはありえないのだが、出来ているのだからしょうがない。

 そこの村では既にレオが説得の為に訪れており、概ね同意を得ていた。


「すみません、村長さんはいますか?」

 俺は前もってレオから話を聞いていた為、村で門番をしている青年に話しかける。


「あんたは?」


「ハルキです、レオさんが話をしてくれていると思いますが」

 そういうと村人はすぐに分かったようで村の中に案内してくれた。


「最近は物騒な状況で人も来ないし、食料も備蓄している分が無くなったらどうしようか困ってたんだ」

 青年はこれから俺達がどうするかの話を聞いているようで、とても友好的な態度で接してくれていた。


「それにしてもあんた強そうに見えないのに、本当にあの森で生活してるのか?」

 警戒心も無いため素の部分が出ているのだろう、青年は気軽に質問してくる。


「困らない程度には。家族も居ますし、実際に村人もいますから」

 俺達は特別な力を貰っただけでほっぽり出されただけだ。

 実際に村として始動してからようやくこの世界らしい生活を送っている。

 そう言う意味でこの世界なりの文化的な生活は送れているだろう。


「人は見掛けによらないもんだなあ。あ、あそこが村長の家だ」

 青年は最近自分に近い世代の男と話す機会が少なかったようで、楽しそうにしている。

 村人は徴兵されていたな、この人も最低限村を守る為に残されたのだろう。

 村長の家の前で青年に感謝を言うとその場で別れ、俺はドアをノックする。


「どなたかな?」

 ドアを開けるとやはり初老のお爺さんが出て来た。


「初めまして村長さん、私はハルキです。レオから話が伝わっていると思いますが、一応その村の村長をしています」


「おお、わざわざご足労すみません。出迎えも出来ずに申し訳ない」

 村長は若い俺にも低姿勢で話掛けてくる。

 こういう人は好感を持てる。


「何もない家ですが、中に入ってください」

 手招きされて、俺は家に入る。

 木造で作られた家は少し古くなっているが、作りはしっかりしている。

 贅沢品の類は見当たらないが、困らない程度に家具や道具は揃っているようだ。

 この世界で人の家に入ったのは何気に初めてだったが、想像とはあまりかけ離れていなかった。


 椅子に座り、奥さんであろう人がお茶を出してくれる。


「ありがとうございます」


「いえいえ、こちらこそ折角お話を頂けたのにこんなものしか出せなくてすみません」

 この女性も低姿勢な人だ。

 一口頂くが、薄い紅茶の様な味だった。


「ハルキ様、この度は我々を救っていただきありがとうございます」

 そう言うと村長は頭を下げる。


「我々はこちらの都合であなた達の住処を奪うことになります、それでも協力していただいてるのですから、感謝すべきなのは我々です」

 身勝手に村を森に変えると言い出したのは俺達なのである。

 それに賛同してくれたこの村の人々に感謝はすれど、される覚えはない。


「我々は既に王国に見捨てられた村です。守るための人も戦力も無く、このままでは帝国が本格的に進行して来た時に全滅だった筈です。物資も最近は滞って、食料も少なくなっておりました。そんな我々に手を差し伸べてくださったハルキ様達は恩人です」

 打開する状況も無くただ悪戯に滅ぶ時を待つだけだったこの村は、直ぐに提案に乗ってくれた。

 本来は村の生活も見て貰ってから判断してもらおうと思っていたのだが、その必要もない程追い詰められていたのだろう。


「ですが一つ問題がありまして……我々は移住させて頂きたいと思っておるのですが、一部の者から反発もあるのです」

 勿論そうなるのは仕方が無いだろう。

 いきなり村を捨てる事になり、生活の場を人が踏み込むことの無かった森の中に移すのだ。

 抵抗感があるのはわかる。


「その者達に説得を続けているのですが中々上手くいかず、このまま残ると言い続けているのです」


「我々にもその方達と会わせていただけますか?」


「なんと! ハルキ様が説得していただけるのですか!?」


「このまま残っても、この村の周辺は森の中に取り残されることになります。そのまま計画を続ける訳にはいかないので、何とか話をしてみます」

 そういうと村長はその人たちのまとめ役である家族の家を教えてくれた。

 俺は早速向かう事にする。



 村の端にある家に到着すると、男の子が警戒心丸出しの顔でこちらを睨んでいた。


「お前は誰だ! 家に何の用だ!」

 手に木の棒のような物を持ち、今にも襲い掛かってきそうな態度でいる。


「俺はハルキだ。話をしに来ただけなんだ、お母さんはい」「うるさい! どうせお前もここから出てけっていうんだろ! 帰れ!」

 どうにも話が嚙み合わない。

 それにこの子は何故ここまで敵対心が丸出しなのか。

 少し話してみる必要がありそうだ。


「待ってくれ、別にほっぽり出すなんて言ってないぞ。ちゃんと住処も用意するし安全に生活できるようにもする。食事だってきちんとあるさ」


「それがなんだ! 母ちゃんは病気でここから動くなんて無理なのに、その体で森に移れって? 移動して住処があってもどうしようもないじゃないか! 俺は父ちゃんに母ちゃんを任されたんだ……絶対に守る!」


 どうやら家族が体調を崩している状況で父親は徴兵されていったらしい。

 この男の子はそれでも必死に母親を看病していた。


 そこに俺達が現れ、何百キロと離れる場所に移れと言われる。

 そこまでどれだけ安全だろうが、その場所がどれだけ安全だろうが、動くことも儘ならない母親が無理に移動すればどうなるか。


 その為にこの子はこんな必死になってここに残ると言っている。

 体を張って家族を守っているんだ。


「そうか、事情を知らないですまない……一度お母さんに会わせてくれないか?」


「何をする気だ!」


「俺がお母さんを治せるなら、治すよ」


「そうやって言って何かするんだろ! どうせ俺たちは邪魔だから!」


「じゃあお前が治せるのか? 今は良くてもここに人が居なくなった後どうするんだ? 食べ物は? ここに帝国が来たら?」


「……」


「キツい言い方をしてすまない。でも俺だったら治せるかもしれないんだ、だから会わせてくれ。絶対に何もしない、ダメだったらもう二度と何も言わないから」

 俺は頭を下げて少年に頼み込む。

 このままこの家族を見捨てて良い訳がない。


「……こっちにこい」

 少年は警戒心は解かないまま、俺を家に案内する。

 俺は導かれるまま家の中に入る事にした。

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