第29話 森林拡大

 家に帰ってから二日が経ち、レオから連絡があった。


「やれるもんならやってみろ」

 領主の一言は別におかしくもなんともない。

 人間が出来るとは思えない提案に半ば呆れながらもそう言ったそうだ。

 だがこれで言質は取れたので、俺たちは気兼ねなく行動に移れる。


 俺達は部隊を3つに分ける事にした。

 森を広げる部隊に俺、リュウ、ルビーがつく。

 村人からはマーズと選出された農業に従事する人間が選ばれて着いてくる。


 森の中での行動が多くなる為ルビーの索敵は安全の為に必要だ。

 最近では俺達もマネできるようになったが、天性の才、神の加護がついているルビーには勝てない。


 リュウは生産の加護があり、それは植林などの一次産業にも通ずる物がある。

 特に今回の肝は俺達家族の膨大な魔力がカギとなる為に、一番多く割り振った。


 デサリアと国境の間にある村への訪問はトラとハンナ、それにレオも合流して行う。

 人の信頼というのは勝ち取るのが難しい。

 警戒心を与えにくいトラやハンナ女性陣と、レオという名のある人間が中心となれば事も上手く行きやすいだろう。


 俺達の村にはココが残ってもらう。

 魔物避けの柵は効果絶大で、侵入される事もないが一応村を預かる立場だ。

 万が一にも危険が迫った時の対処として残ってもらうのだが、村で行う作業を指揮してもらう形になるだろう。


「じゃあ俺達もぼちぼちやろうか」

 先に森の外へトラ達を送って戻ってきた俺は、森を広げるために集まった人間達と森の境目まで来ていた。


 前もって森に生えている木の種は集めてある。

 勿論欲しいからといって直ぐ見つかる物でもないが、俺達には魔法がある。

 成長促進の魔法<グロウヘイスト>で木を一気に成長させ、種を作ってもらった。

 自然に反する魔法の為にあまり使いたくは無かったが、今回はどうしても必要だった。


 人の生活を破綻させる魔法は極力抑えるつもりだ。

 俺達しか出来ない事でしか実現出来ない物など、この世にはいらないと思っている。

 危険な事だって増えるだろうし、俺は皆と平和に暮らしたいだけだ。


 その種を植える為に、森の外の土を<アースクリエイト>で耕す。

 元々強い種である木だろうが、今まで生えてない所に植えるのだから少しは手を加えた方が良いだろうという村人からの提案だった。


 俺とリュウは一気に広範囲の地面を耕す。

 目に映る土地を全て耕すつもりで行ったが、これでも予定の土地は1%くらいだろう。

 それでも今行われている魔法を目にした同行する村人達は目を点にする。

 そろそろ慣れてくれないだろうか。


「相変わらず規格外な魔法ね……」

 マーズは呆れた様子で言ってくる。


「俺達が提案したんだ、これ位しないと実現なんて夢のまた夢だろう」


「それもそうだけど。とりあえずここからデサリア方面に向けて進めていくわ。国境方面はそっちがひと段落してからね」

 俺達は国境とデサリアの中間位に居る。

 先に街側に広げていくのは、国境付近に居る帝国に少しでも知られるのを遅らせる為だ。

 とは言っても斥候なども居るだろうし、そんな猶予はくれないだろう。

 魔力が枯渇してしまう位、頑張らないとな。


「じゃあルビーは基本的に索敵を頼む。俺たちは植林に集中するから、何かあったらすぐ教えてくれ」


「わかったわ。それと、怪しい人間がいたら」


「決して殺さないでくれ、一人で向かわないでくれ」


「わかってるわよ。心配性なんだから」

 ルビーも早々遅れをとるような事はないだろう。

 それでも万が一という可能性がどこに潜んでるか分からないので、相手が人だった場合は特に注意した。


 もしかしたら初めて人と争うという事態も避けられないかも知れない。

 だが一人でも多くの人間を救いたい、全てが思うように進んでくれる訳ではないのだから俺も覚悟は決めて来た。


「じゃあマーズと皆は種を植えて行ってくれ、俺とリュウも植えつつ次の土地を耕してくるよ」

 種を植えると言っても耕された土に感覚を開けて置いていってもらうだけだ。

 ある程度の範囲に置ければ俺とリュウがグロウヘイストで成長させる。


 とは言ってもこれから行う作業は100キロ以上に渡る範囲で行うのだから、負担は避けられない。

 俺は気休めにでもと強化魔法<ボディバフ>を皆に掛ける。

 イメージは肉体の強化。足腰に負担が来るだろうし、持久力や瞬発力全般の基礎的な部分を強化する魔法だ。


「お? なんか軽くなったぞ?」


「村長はすげーなあ。っておお!? 早く走れるぞ!?」

 村には大人の男性が少ない分、農業は多くの子供がやってる。

 家が農家だったため知識のある子たちが協力的に行ってくれていたのだが、俺の魔法が思った以上に効いてしまったのか俺達が耕した数キロの範囲もある土地にあっという間に種が撒かれてしまった。


「ハルキ……これは俺達も頑張らないとヤバいかもね」

 思った以上に早く種を撒き終えた為、俺達魔法組が待たせてしまう事態になる。


「魔法やばい……リュウも使い方に気を付けような」

 俺は異世界に存在する魔法の脅威に怯えつつ、精力的に魔法を使う。


 土地を耕す、種を撒く、成長促進をする。

 その繰り返しだったのだが、今日の目標だった10キロの3倍の距離を一日で終えてしまった。

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