第27話 初めての家族旅行
「この世界でしか見られない物をみたいな」
俺はなんだかんだで初めて巡る異世界の街にワクワクしていた。
今日一日は楽しもう、トラとルビーも楽しそうにしてる。
「儂は宿に戻ってるよ」
レオは少し疲れた表情をしていたので、先に戻る事になった。
ハクも勿論俺達と一緒だ。
「わあ沢山店があるね!」
少し古風な雰囲気がある街並みに、様々な店や屋台が並んでる。
トラはその種類の多さにどこを見ていいのかわからない様子だ。
「とりあえず気になった所は回ってみようか」
お金はレオが手持ちから少し分けてくれた。
本格的に商売や魔物の素材などを売るようになると俺達ならすぐお金が貯まるし、そうなったら返してくれと言われたので、ありがたく貸してもらう。
王国の金銭の価値も教えて貰えた。
銅貨、銀貨、金貨があり、それぞれ元の世界では100円、1000円、100000円位という事が分かった。
日常で使うのは高くても金貨まで、その上には白銀やオリハルコン通貨なども存在するらしいが、それは大きな商売や国に関する時に使われるもので今は覚える必要はないという事らしい。
俺は今回金貨1枚と銀貨20枚を貸してもらったが、流石はレオだなという感想だ。
これだけあればリュウとココにも何か買って帰る事が出来そうだ。
「あれなんだろう?」
トラは早速興味を引く店を見つけたようだ。
「すみません、これはなんて食べ物ですか?」
俺が店員に聞いてみる。
「何だい兄ちゃんたち、ティーヤを知らないのかい? 割とポピュラーな食べ物だと思うんだけどなあ」
ティーヤとは穀物を引いた粉で作られるパンのようなものだった。
それに色々な具材を巻く、タコスのようなものか。
「田舎から出て来たもので、料理に疎くて」
とりあえず誤魔化しておいたが、並んでる具材は見た事の無いものばかりだ。
「食べてくかい?」
「是非!4つください」
レオのお土産は帰りにしようと思い、今いる分頼む。
「何か嫌いな物はあるかい?」
「俺は無いけど、みんなは?」
「私はないよ!」「私も」「野菜イヤー」
「じゃあ一つだけ野菜抜きにしてください」
「坊主も野菜食べないと大きくなれないぞ?」
店員さんがハクにイタズラっぽく言うと、「そうなの?」と慌てる。
「じゃ、じゃあ食べる!」
「お、偉いな坊主! 特別に坊主の分はタダでやるよ!」
気前のいい店員のおじさんは、ニコニコしながら作り始める。
「本当にいいんですか?」
俺は申し訳ないと思い確認する。
「ああ、最近は冒険者もめっきり来なくなったし、この状況だろ? 兄ちゃん達は田舎から来たみたいだからわからないだろうけど、これでも人通りは少ないんだ。もっと観光客や人で溢れて祭りのようなんだよ、ここいらは。どうせ食材は悪くなるし、それならこんな素直な坊主に食ってもらった方が嬉しいよ」
ニコッと笑うが、やはりしわ寄せは街の至る所に出ているようだ。
「ありがとうございます、その代わりまた食べに来ます」
「それは嬉しいね! はいよ、おまち!」
手慣れた様子で4つ作ってくれたティーヤを受け取り、俺たちは近くのベンチに座る。
「いただきます」
一口齧り付く。
肉の旨味とパンで食べ応えは十分にあるが、野菜が多く入ってるため口の中は爽やか。
1つと言わず何個でも食べたくなる味だ。
「うまーい!」
野菜が苦手だというハクも夢中になっている。
「野菜はやっぱり美味しいね、早く村でも取れるようになれたらいいな」
「このトマトのような味の実は何でしょう、面白いですね」
トラとルビーも久々の野菜に喜んでいるようだ。
今の村では狩って来た肉が中心だ。
森に生えてる野草なども食べるが、食の為に作り出された野菜というのはやはり別格の味だ。
「そうだな、沢山作れたらいいな」
俺は今村で動き出してる畑が上手く行くことを楽しみに、食事を楽しむ。
周りの出店を見てみると、やはり甘味は少ないようだ。
果物などが主流で、お菓子系は目に入るところにはなかった。
村で砂糖かそれに似た物を探せないかな、と思うと街を見るだけでも国を知るのには大切なんだなと改めて実感する。
「ねえハルキ、あそこに寄ってもいいかしら?」
ルビーが珍しく自分からお願いして来た。
簡単な装飾品や雑貨が置いてある店だ。
「面白そうだね、見てみようか」
「ありがとう」
優しい笑顔で答えたルビーに少しドキッとしてしまった。
中に入ると様々な装飾が入ったアクセサリーの前で立ち止まる。
少しくすんだ色の金属に簡単な綺麗な石が入っていたり、革の紐で作られたネックレスなど置いてある。
その中の一つに俺は目を引かれた。
何の変哲の無いブローチ。
木工で作られた羽の根本に、赤い石。
値段も余り高くないそのアクセサリーを手に取る。
「素敵ね、そのブローチ」
「ああ、これをルビーにプレゼントしようと思ってな」
「え、私に!?」
驚いた様子をするルビーは珍しい。
「ピッタリだなって思ってさ。インコだった時、綺麗な色をしててな。宝石の様だって思ったんだ、だからルビーって名前を付けて」
俺はブローチを手に取り少し昔を懐かしむ。
あの頃は疲れきっていて、あまり物に興味を抱くことはなかった。
それでも初めてルビーを見た時は一目惚れだった。
とても綺麗な羽に見とれた俺は、その日の内に家に連れて行った。
物思いに耽っていると、違う所を見ていたトラがいつの間にか隣に居る。
「私には?」
なんか怖い。笑ってるけどすっごい怖いよ。
「もちろんみんなの分を買うよ」
俺はトラの頭を撫でながらそういうと、少し怖さが減った。
その後も色んな店を回って、色んな物を見られた。
俺にとっての、初めての家族旅行。
そんな幸せな時間はゆったりと流れて行ったのだった。
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