第26話 拡大計画

 ハクから提案されたのはシンプルかつ非常識なものだった。


「森を広げたら?」

 俺達が住む未開の森。

 それを帝国と王国の国境まで広げてしまう、という俺達でないと出来ない作戦だ。


 魔法を作成出来る事が分かった俺は、森を出るのにジェットの魔法を使った。

 土台を飛ばす他に空気抵抗など知識があったため、それを防ぐのも組み合わせて作った。

 植物も前の世界で畑などをやっていた為原理はわかる。

 土壌、太陽、水、気温、そして時間。

 これが揃えば大抵は育つ。

 全く別の土地で生やす訳でも無い、広げるだけだ。

 その後も勝手に維持できるだろう。


 未開の森を広げれば自然と魔物の分布も広がる。

 国境まで魔物の分布が広がれば、帝国といえども簡単に突破できないだろう。

 未開の森の魔物は危険だと言われるほど手強い。

 だからこそこの地はこのまま放置されている。

 それを上手く利用できれば天然の柵の完成だ。


「森を広げるって……何を言ってるの?」

 イザベルが当然の疑問を呟く。


「未開の森の植物を活性化させる魔法を使う。俺も試してないからわからないが、ハクが提案したんだ」

 そういうと俺はハクのフードを取る。


「何すんのさハルキ!」

 いきなり顔を出したハクはビックリして怒る。


「その子が何? ……いえ、何か懐かしい気配が」

 イザベルがハクの顔をじっと見つめる。


 ハクとレオが着ていたのは、バレないよう村で作った特製の上着だ。

 この上着には認識阻害の効果がついていて、全く意識されずに行動出来た。

 だが今回はハクの存在が信用に変わるだろう、協力してもらう。


「この方は聖竜様だよ、イザベル」

 レオがハクの正体を告げる。

 見ず知らずの俺よりレオが伝えた方が真実味があるだろう、レオも意図を汲んでくれて助かる。


「聖竜様!? 聖竜様は討たれたんじゃ!?」


「ハク様は聖竜様、それは確かだ。ただ今はそれしかわからない、この姿である事、ハク様は本人か子か、はたまた……それも調べてる所だ」

 レオがそういうとイザベルは片膝を着き頭を垂れる。


「ちょっと待って、イザベルさん。あなた達にとって聖竜という存在が大きいのはわかるんだけど、そういう態度はやめてくれ」

 俺はイザベルにお願いする。


「今回はこの街の危機と、貴女がレオの娘だという事で素直に話した。でもまだわからない事だらけの現状でハクの事がバレないようにしたいんだ。だから普通の人として接してくれないか?」


「だがそれでは恐れ多くて」


「いいよなハク?」


「うん、お願いねイザベル!」

 ハクは笑顔でイザベルに答えると、元の姿勢に戻り「わかりました」と答えた。


「森を広げるというのは、わかりました。それでもまだ懸念すべき点があります。それが全て上手く行ったとして、今度は魔物の脅威が出てくるのではないでしょうか」


「それは大丈夫、俺達も未開の森に住んでいてね。魔物避けの柵なんか作ったんだが効果はもう試してある」


「それとこの街の領主に話を伝える必要が出てきます。森の拡大に柵の設置など、知らぬ存ぜぬでは通用しません」

 国土に影響を与える行為、前代未聞の事が立て続きに起きれば街や国が混乱する。


「イザベル、儂の書状を領主に持って行ってはくれんか」

 レオはまた頭を下げる。


「この街の領主は顔見知りでな、悪いやつではない。領主との問題は儂が何とかする。だが国と関わるのはまだ早い。イザベルが直接領主に渡してくれればあやつはその辺を何とかしてくれるはずだ」

 レオがそういうとイザベルは渋い顔を浮かべたが、諦めたように答える。


「わかりました、今回は他に手も無いですし協力します。ただ、それでも私は貴方を許していませんから」


「それでいい、儂はこのギルドの一冒険者として街の危機を手助けしたいだけだ」

 そういうとレオは紙を出し一筆認める。


 俺達はその間に改めて冒険者ギルドに登録をお願いする。

 簡単な記入と血を認証する。

 それだけで済んだが渡された身分証代わりのプレートにはしっかりと名前が彫ってある。


「これは特殊な魔法で加工されていて、本人以外には利用できない仕組みになっているわ」

 イザベルが説明してくれたが、異世界らしさを実感できた。


 レオが書いた書状をイザベルに渡す。


「迷惑掛けるが、頼む」

 そういうと無言でイザベルは受け取り、部屋に戻る。


「とりあえず俺たちは、森の拡大作業の準備をしようか」

 俺は早速村に帰ろうと提案するが、トラとルビーが不機嫌だ。


「街を見て回るって言ったのに」

「デートが……」

 二人がブツブツと呪文のように呟くので、俺は慌てて謝る。


「じゃあ今日は街の見物にしよう! 働くのは明日からだ!」

 そういうと機嫌を良くした二人が俺の腕に組み付く。


「じゃあお邪魔な俺は仕事に戻るよ」

 ダニーは身分証を確保した俺達の監視を終え門に戻るようだ。


「お世話になりました」


「改まるなよ。それにこれからもよろしく頼むな」

 ダニーはそういうと「またな」と挨拶して先にギルドを出て行った。


「じゃあ俺たちも行こうか」

 これから始まる大きな作業の前に、ひと時の休息を味わうことにした。

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