第25話 謝罪と誓い

 俺達は冒険者ギルドに向かっている。

 レオの足取りは重い。


 この件に関して俺たちが協力出来る事は無い。

 レオと家族の話なのだ、下手に味方になるのは無粋だろう。

 それに置いていかれた娘のイザベルの事を考えると、レオは許されなくても仕方ないとも思っている。

 俺が家族を置いていなくなって恨まれたら、俺は受け入れ一生罪悪感を抱くだろう。


「ここがこの街の冒険者ギルドだ」

 ダニーが案内してくれた為迷わず到着出来た。


「レオ、覚悟は出来ているか」

 俺はフードで顔の隠れているレオに話しかける。


「ああ、何を言われても仕方があるまい」

 諦めのような言葉を吐くレオ。


 すると一緒に来ているトラが怒り出す。

「そんな状態でイザベルさんに会うのは失礼だよ」


「しかし、儂は……」


「恨み事を言われるのは当たり前、それでも向き合うんだよ。相手が大切だと思っているのなら、仕方ないと諦めるのではなくて、その気持ちにもきちんと向き合って。一生許されないのなら、一生謝り続けて。逃げないで」

 家族としての絆を知るトラだから出る言葉。


 世界はそんな単純じゃない、血が繋がっていても起こる悲しみや、繋がりの無い関係だって沢山ある。

 それでもレオの人柄と今の様子からは、大切な家族だったのであろう。

 だからこそ国を捨てた時の決意を踏みにじる事はしない。


 それは俺達とレオの関係だ。

 レオとイザベルさんの関係とは別だ。

 だからこの件はレオが向き合う事が大切なんだ。

 最初から逃げ腰では、お互いが無意味に傷ついて終わるだけだから。


「情けない姿を見せた。儂はまた、家族と話が出来る事を喜ぶべきだった。だから受け入れる、どんな言葉も思いも」

 レオは姿勢を正し、ギルドの扉を開ける。


「これは……?」

 その光景を目にしたレオには驚きの言葉しか出なかった。

 いつもはスタッフや冒険者などで人が賑わうギルド。

 だが全く人が居ない。

 掲示板に貼られているはずの依頼も点々と存在するだけで、中身も住民の困りごとの依頼が貼られている程度だった。


「すみません、誰かいませんか」

 俺は受付の前で大きな声を出す。

 すると二階の部屋から一人の女性が出て来た。


「何か用でしょうか?」

 赤髪でスラっとした女性は、俺たちを見て受付までやってきた。


「貴女はイザベルさんでしょうか」

 俺は尋ねると、「はい」と一言だけ答える。


「すまない、イザベル……」

 少し涙声になるレオは、俺の横から声を掛ける。


「……!?」

 不意をつかれたイザベルさんは、息を飲み沈黙した。


「本当にすまない」

 フードから顔を出し、頭を下げるレオ。


「帰ってください」

 イザベルはやはり攻撃的な態度だった。


「イザベル、儂を憎むのは当たり前だ。だから個人的にまた仲を戻してくれなどとは言わん。ただ、この状況だけ教えてくれ」

 明らかに人が居ない状況、異常事態だというのが分かりきっていた。


「貴方に話す事など何もない!」


「儂は冒険者としてこの建物に来た。冒険者ギルドがおかしくなっている状況で事情も分からず帰る訳にはいかない。どうか教えてくれ」

 どれだけ罵声を掛けられても頭を下げて、状況を聞かせてくれとお願いするレオ。


「何も言わずに出て行って、戻ってきたら頼んでも出ていかないなんて、なんて非常識なの!」

 怒りに任せてどんどん声が大きくなるイザベル。


 それでもレオは頭を下げ続け話を聞かせてほしいと頼み込む。

 人によってはなんて自分勝手なんだとレオを蔑むだろうが、レオなりの罪滅ぼしなのだろう。


 俺達が出来る事はないだろう。

 どちらかの味方につくことはどちらも傷つけてしまいそうで。


 すると黙っていたダニーが話始める。


「イザベル様、レオの事を許さなくてもいい。目的の為にあなたを置いていったんだ、どれだけ非情な言葉を浴びせたって文句を言う者はいないだろう。ただ、この者たちとレオなら、この街を、国の助けになることを出来ると思うんだ。だから冒険者として扱ってくれないだろうか」


 ダニーはそういうと、レオと一緒に頭を下げる。


「……絶対あなたを許しません」

 そう一言言うと、このギルドの状況を説明してくれた。


「今王国は食糧と兵器、それと戦力の増強を推し進めています。帝国との開戦で徹底抗戦を選んだ王国は籠城の準備を進める為に、首都を中心に守りを固めている。その為にこの街は犠牲になっています」


 イザベルは少し迷いながらも話を進める。


「この街周辺の魔物はそれ程強くない為、資源として狩りつくされました。ギルドにも大きな額の依頼を掛け、冒険者と兵士が協力して大規模作戦として行われたのです。そして終わった後、この街には冒険者の居場所はなくなりました。戦う魔物が居ないのです。未開の森の魔物は一般冒険者の手には余ります。村絡みの護衛も帝国に支配されている地域が広がり始めて必要が無くなり、仕事を求めた冒険者は中央の首都を中心に活動するため出て行きました」


「絞るだけ絞って見捨てたのか」

 俺はまた人の狡さを憎む。


「だがらと言ってギルド支部を無くすことは出来ません。それはギルドと国がこの街を見限ったという証にもなります。だから私がここに派遣されて名だけのギルドマスターになっているのです」


 そういうとこれ以上話すことは無いと、口を閉じるイザベル。


「やはり王国は……」

 俺がレオから聞いていた、民の切り捨て。

 それは村だけではなく、辺境の街も含まれていた。

 生き残るための非情な作戦。


 元有名冒険者の娘、それだけの立場を持つ人間を送り込むのは体裁の為だろう。

 その冒険者が居なくなった状況は話を進めるには好都合だ。

 

 するとハクが俺を指でつんつんする。


「ねえハルキ」

 どうやら伝えたい事があるらしく、俺はハクの口元に耳を持っていくと、ハクは考え付いた案を話始める。


「そんなことが可能なのか?」

 俺は驚いて尋ねると、「ハルキ達なら大丈夫!」と太鼓判を押す。


 半信半疑になりながらも、俺はハクに伝えられた案を提案してみる。

「もしかしたら、デサリアを守る事が出来るかも知れない」


 そうして俺は、王国から捨てられた街デサリアを救う計画を皆に伝え始めた。

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