第24話 レオ=ラインハルト
目覚めた俺たちは、部屋から出るとダニーさんに挨拶する。
監視という名目で同行している為、別の部屋とはいえどきちんと仕事をしているみたいだ。
いつでも飛び出せる恰好で眠そうにしている。
「寝てないんですか?」
「一応監視が俺の役割だからな、勿論お前らを信用してないわけじゃないぞ? 俺の仕事なだけだ」
それでもわざわざ別の部屋を取ったのは、俺たちに必要以上に気を遣わせないためなのだろう。
「お疲れ様です」と一声かけ、食堂に向かう。
「はい、お待ちどお」
食堂に着くと宿泊客の食事を用意してくれていたオヤジさんが手早く料理を持ってきてくれた。
パンにスープ、サラダと朝に適した簡易的なメニューだったが美味い。
流石にダニーさんがおススメしてくれただけはあった。
「すまねえな、こんなもんしか出せなくて」
申し訳なさそうにするオヤジさんに聞くと、元々農業や畜産、魔物を狩る事で回っていた食材がこの戦争で滞っている。
村の生産自体少なくなっているのもあるが、どうやら備蓄する為に優先的に国に回されているようだ。
「まあその分夜はちゃんと出してやるから期待しておけ」
昨日の夜は鹿肉のソテーだったな。思い出すだけで涎が出る。
今後も色々な食事をしてみたいものだ。
食事を済ませ宿から出る俺たちはダニーさんに冒険者ギルドで登録をすることを告げる。
本当は生産ギルドで登録をし、後々商業ギルドでもお世話になりたいと思っていた。
しかし昨日のレオの意向で変更になった。
レオが元々この国で立場を持っていたのは、元高ランク冒険者だった為だ。
とはいっても冒険者家業は十年以上前に引退し、一時期はギルドマスターも務めた事があるようだ。
ここ数年は目立った働きをしていなかったようだが、それまでの働きで国から男爵相当の権力はもらっていたらしい。
ただ者ではないと思っていたが、今こうして確認したのはそのレオが冒険者ギルドに素性を明かす事になっているからだ。
「それにしても本当にいいのか? 儂のわがままみたいなものだぞ」
レオは改めて確認するが何を今更。
「なるようになるさ。それに俺たちがやろうとしているのは別に悪でもなんでもない、レオが不正を働く必要もない」
大事な時期に国から去ったレオが戻ってきたとあれば、下手したら国に目を付けられる。
そこから俺たちの村の存在を知り、俺たち家族の能力を知り、利用しようとする者達が現れる可能性だってある。
だったら俺は皆を守る。
守るだけの力を貰ったし、今までの様に怯えて逃げるつもりはない。
それにもう仲間となったレオを犯罪者にしたくないからな。
「ん? どうしたんだ?」
ダニーさんが少し怪しんでいる。
俺達の会話を聞いて、聞き逃すような適当な仕事はしてないだろう。
だが俺はダニーさんを信用している。
俺達が間違ったことをしない限りこの人は敵にはならないだろう。
偽らずいく事を今回同行したメンバー、それに通信の魔道具で留守を守る家族にも確認している。
「ダニーさん、実はですね」
そういうと俺は自分達の状況とレオの事を伝える。
……
「レオ=ラインハルト様ですか!?」
どうやらレオは有名人だったらしい。
人目に付かない所でフードを外したレオを見たダニーさんが改めて畏まっている。
「儂は国を一度捨てた身、同じ立場で接してほしい」
レオがダニーさんに伝えると、「では俺に対しても同じように接してほしい」とお願いされた。
「元とはいえお偉いさん達に畏まられては居心地が悪い」
ハッキリと言う人だった。
「じゃあダニーさ……ダニー。俺たちはダニーにこれからどう動いて貰っても構わない、仕事でもあるしね。それでも正直に向き合ったのはこの街の人々を見たからなんだ。素直な好意を向けてくれる皆に向き合いたいから隠し事はやめようって」
俺達が昨日部屋で話した内容を伝える。
だがダニーは何言ってんだ? という顔で答えた。
「別に仕事って俺はお前らがこの街に危険を及ぼさないかの監視なだけで、国の人間とその付き添いが帰ってきただけだろ。何を報告するんだ?」
「俺達の村の存在もか?」
「村っていっても元々国は税を納めれば国として村を認める程度の物だし、それに利を感じない村がいたって別にいいじゃないか。それに未開の森に入ってく余裕も、その森で生活している戦力と対する度胸もうちの国にはないよ」
笑って皮肉を言う。
これが彼の本心なのだろう。
近くの村は見捨てられ、自分たちの街が防衛に躍起になっている。
勝てなくても救える命があるのに、国を守る事を優先し切り捨てていく。
国としては間違ってないかも知れない、でも前線の兵士として長年勤めているダニーには苛立ちもあるのだろう。
「まあ俺の方は気にすんな」
ダニーが話を切り替えてくれたので、レオが質問する。
「今このデサリアの冒険者ギルドのマスターは誰がやっているんだ?」
話を進めるなら少しでも顔を知っている者だと助かる。
「……今のギルドマスターは、イザベル様です」
「イザベルだと!?」
レオが顔をしかめる。
何か不味いのか?
レオが明らかに動揺している。
「大丈夫か、レオ」
「ああ、ハルキ……先に言っておく、イザベルは我が娘だ」
娘か、何か事情があるのだろうか。
それこそ捨てていった家族だから、それ所の話ではないのかもしれない。
ここは街とはいえ最前線。
王国でも今特に危険な場所に位置する街だ。
そこで働く事を意味するのは。
「やはり儂のせいか」
レオはこれから本当に向き合わないといけない人と会いに行く事となった。
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