第23話 異世界の街デサリア
「わあ、人がいっぱい!」
トラは街に入ってすぐ目にする人の多さに驚く。
前の世界では山奥で人と出会う事が少なかった。
いつも家に居たトラには新鮮な光景だった。
隣に居るルビーも見て回りたそうにウズウズしている様子だ。
「手続きが終わったら後で見て回ろうな」
「やった!」「行くと言うならついていくさ」
俺が二人に声を掛けると喜ぶ者と強がる者が居る。
ルビーも少しは無邪気さを持てばいいのにな。
「とりあえず身分を証明するにはどこかのギルドに登録するのが早いな」
「ギルドですか?」
「依頼や討伐などで生計を立てる冒険者ギルド、商売をしたいなら商業ギルド、建築や装備などの物作りなら生産ギルドだな」
「登録するのには何が必要なんでしょうか?」
「必要な事を書類に記入して、血を一滴垂らしたら終わりだ」
「血ですか……?」
「なんだ怖いのか? 指先から少し出すだけで大丈夫だよ。登録自体は別々だが、犯罪経歴は一括で管理されてるんだ。血を垂らすのはそのためだよ、誤魔化せないからな」
この世界は色々な勢力が別々に活動しているようだ。
だが冒険者ギルドが素材を集め、生産ギルドが作成、商業ギルドが売る。
という流れが存在する為、仲が悪いという事は無いらしい。
そして悪事を防ぐために血を情報とし、犯罪歴がある者を逃さないようにするシステムが存在する。
それを一括して軍が存在する国が管理するという。
「それは改ざんされたりしないものなのですか?」
こういう物を権力を持つ人間が管理すると碌なことにならない。
それは前の世界に居た人間でも当たり前に疑う事だろう。
「大丈夫さ、犯罪歴というのはきちんと手続きが行われて記録される。この国の代表である各ギルド長、軍の上層部、国王が事例を確認し、承認の書類を全て集めないと変更出来ない契約があるんだ」
「そんな契約は口だけで何とでもなるのではないですか?」
「馬鹿言うな、きちんと魔術契約が行われている。不正が行われたらその者の命が無くなるのだから、無理だろう。犯罪歴がつくだけで、その者が今後どう生きられるかに影響を及ぼす物だ。簡単には細工できないよう、生み出すときにきちんと考えられて作られているよ」
「そんな恐ろしい方法があるのですね」
金と権力でどうこう出来ない契約が存在するのは確かにどんな物よりも信用出来るが、契約を破ると命が失われる。
それだけ不正を良しとしない風潮が存在したのは少し嬉しくもあった。
「お陰で犯罪歴の烙印はそれだけ重たい物になっているよ。良くて半奴隷のような労働者に。街にいる事も出来なくなるような物だ、お陰で治安は良くなったがな。お前も気を付けろよ?」
「大丈夫ですよ、元々悪さなんてする度胸はありませんから」
ダニーさんはわからない事をきちんと説明してくれるマメで親切な人だ。
それにしても、この国は案外優良国家なのか?
でもレオが見限った国でもある。判断するには色々見て回る必要がありそうだ。
「今日はもう日も暮れて来てるし、登録は明日にするか。お前らもどこに登録するか考える時間も欲しいだろう。とりあえず宿でも探したらどうだ?俺も同じ宿に滞在するが、金はこちらで出すから心配するな」
ダニーさんが一先ず休む事を提案してくる。
しかも村から逃げ延びて来た(という設定)の俺達を心配して、金まで負担しようとしてくれている。
「流石にそこまで頼るのは申し訳ないです、幸い手持ちは少し余裕ありますから。でもダニーさんが監視役を引き受けてくれて良かったです」
そういうと少し照れるダニーさん、この世界におじさん萌えという要素はあるのだろうか。
この人は根っからの善人なのだろう。初めて会う俺達にもここまでしようとしてくれるのだから。
素直な好意にこちらも答えないとな。
俺たちも偽らず話しても良いかもな、という相手だ。
最初に出会った相手がこの人で良かった。
宿はダニーさんが仲良くしてる安めの宿を紹介してくれた。
値段の割に食事も設備も良い。
「オヤジがうるさいのがたまにキズだけどな」
笑いながら紹介してくれた宿の主人はいかにも頑固そうな男性だった。
ガヤガヤとにぎやかな受付兼食事処は、その店の雰囲気がどういうものか一目で分かる明るさだった。
「お世話になります」
俺は主人に頭を下げると、受付を済ませて部屋に案内される。
「俺は別の部屋を取るよ、お前らは部屋一つしかとらなかったけど、大丈夫なのか?」
ニヤニヤしながらこちらに尋ねるダニーさんだったが、「家族ですので」と一言告げると「そうだったか」、と納得し自分の部屋を取ったようだ。
部屋に着くと少し広めの部屋にベットが2つ。
どうやら俺たちが一部屋しか取らなかったのはお金の節約の為だと思ってくれたのか、布団も3つ用意してくれていた。
あの頑固そうな主人も気づかいの出来る良い人だな。
俺は早速デサリアに入ってから不安だった事をレオに尋ねる。
「レオは王国の登録してるだろう? 明日俺たちは身分証を作る事になってるがどうするんだ?」
レオはこの王国でそれなりの地位に居た人間だ。
バレないようにフードを深めに被り一言も喋らず着いてきたが、血を出すとなると隠しようがないだろう。
「本当は少し外道な策を考えたのだがな、今日一日で考えが変わったわ! 素直に儂である事を伝えようと思う」
外道とは……? と思っていたが、どうやら村人から血を一滴貰ってきていたらしい。
村に住む者には登録していない者も沢山いる。
むしろ街と直接関りがある人物くらいだ。
それ程街と村の格差があるのだ。
だが俺もダニーさんや宿の主人の人としての優しさに触れ、自分たちが目的の為に偽っている事に嫌気がさしていた。
レオもそう思ったのだろう。
「儂も権力に浸かり切っていたのかもしれんな」
実際は違っても、見えるものが悪しかなかったら全てが悪に見える。
俺も自分の周りに居た人間だけを見ていたせいで、全ての人間が同じように見えていた。
同じ事なんだろうな。
「ただ儂は亡命した人間だ。ギルドが協力的でなかった場合、悪いがハルキ達も巻き込むかもしれん。だからハルキが決めてくれ、これからも偽っていくか、正体を明かすか」
答えは決まっているだろう。
俺の気持ちを知ってて尋ねてきている。
「ズルいじいさんだな」
「巻き込んだ時点で儂はズルい人間だよ」
だが悪い気はしてなかった。
あれだけ怖がっていたのが嘘のように、今まで触れてこなかった人との関りを
、この世界に来てから沢山体験している。
「巻き込まれたならとことん巻き込まれてやるさ」
俺は図らずも、決意することになった。
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