第22話 王国での出会い
俺たちは街道を進み一番近くの街へ向かっている。
この世界の街とは一定以上発展した土地に名を付けられていて、都市の事を指す。
そしてレオ達が居た村などは小規模で立場的にも弱く、名も与えられない。
一定の税を納める事で村と認められ、ある程度の恩恵を得られるが、今起こってる有事に見捨てられる程度の物だ。
俺たちが歩いてる街道は帝国寄りではあるが都市が近い為、まだ荒らされていない様だが、帝国の傍にある村は恐らく全て荒らされているだろう。
道中一つの村を通り過ぎたがうちの村に居る者達と同様男手が少なく、やはりここも同じ運命を辿るのかもしれない。
すぐにでも声を掛けうちの村へ招き入れようと思ったが、レオから耐えてくれと言われ今は通り過ぎるだけとなった。
「決して見捨てろというわけではない。だが王国で味方を作ってからでないと我々は敵として扱われるだけだ」
レオも王国の方針に合わずに国を捨てた身、気持ちは俺と同じだろう。
冷静に判断してくれる人間が近くに居てくれて良かった。
「悲しむ人が少しでも減るように、俺たちも頑張らなきゃな」
俺たちは改めて強く思う。
家族と暮らす喜びを知っている、人に見捨てられる悲しみを知っている俺たち家族だから、寄り添える人たちが居るはずだ。
一人でも多く笑って暮らせるように、やれることを。
野盗や魔物の遭遇もあるかもしれないと思っていたが、どうやら無事街に到着出来た。
ルビーの探知に引っかからなかったのだが、レオは少し不審に思ったようだ。
「いくら街が近かろうと魔物は出る。森の様な凶悪な魔物が居る訳では無いし、量だって多くは無いが、流石に一匹もいないとは」
「良い事なんじゃないか? 危なくないだけなんだし」
「たまたま出なかったのならいいんじゃがな」
そう会話しながら門に近寄ると門番に話しかけられる。
「身分証を出してくれ」
もちろんこの世界に飛ばされた俺たちはそんなもの持っていない。
だがレオから先に聞いておいたので問題はない。
「すみません、我々は国境付近に住んでいたので命からがら逃げて来て、身分証なども持ってこれませんでした。手元にはお金しかないのですが入場料でもよろしいですか?」
身分証を持ってない者は入場料を支払い入国出来る。
しかし今のご時世そう簡単に通してくれない。
もし入場出来てもしばらくは監視が付くだろう。
少しでも心情を良くして警戒心を緩めておいた方がいい。
という事で嘘を着くことにした。
「すまない、我々も自分達の事で手いっぱいで国境付近の君たちを守れずに……」
門番の兵士は俺たちに頭を下げる。
「わかってます、相手は帝国ですし。私たちも命があるだけまだ良かったです」
「それに今は敵国の間者なども紛れる可能性がある。身分証が無いと兵士が同行することになる。守れなかった上に疑う事など、申し訳ないが許してくれ」
「お仕事ですものね、お気遣い有難うございます。すぐに身分証を作りますので、お手間を取らせて申し訳ありません」
しばし申し訳なさそうにしている門番を見て、俺は少し同情をしてしまった。
徴兵では無く国を守る為に兵士になった者だろう。
その兵士が国の方針に従い、街の守りを固めている。
決して愚かな行為とは言い切れないが、それでも無念なはずだ。
「俺はハルキといいます。門番さん、名前を伺ってもよろしいですか?」
「名前か? 俺はダニーだ。門番の名前なんて聞いてどうするんだ」
「あなたのような兵士がいる事が嬉しかったので覚えておきたかったのです」
何故かこの者には今後縁がありそうだと直感で思った。
あまり目立つことはしないつもりだったが、名前を聞いておいて損はない気がしたのだ。
幸いこの行為はダニーにとっては嬉しかったらしい。
見捨てたはずの人間から向けられた好意に、ダニーの心は少し癒えたようだ。
「では詰め所に向かおう、同行は俺がするよ」
ダニーは柔らかい顔をして言った。
「良いんですか? 門番の仕事は?」
「大丈夫だよ、俺は一応ここでも上の立場でね、同行役の人間と交代してもらうさ」
それは職権乱用というやつではないのか。
でもダニーは悪い人間では無さそうだし、同行役を買ってくれるならありがたい。
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
俺は改めてお礼を言うと、一緒に詰め所まで行き、話をつける間待機する。
最近は身分証の無い人間の入場なんてあまりなかったのだろう。
居眠りをしていたのがバレた同行役をするはずの兵士が涙目になりながら門へ向かって行った。
「あの野郎、仕事無いからってサボりやがって……」
拳を握りながら出て来たダニーを見て、拳骨でも食らったのだろうと察する。
すまない、名も知らぬ兵士よ。
「待たせたな、じゃあ行こうか」
仕事というよりは友人のような態度でダニーに案内をされる俺たちは、無事王国の街【デサリア】に入る事が出来た。
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