第21話 初めての王国へ
俺は緊張していた。
この世界に来てから初めての街へ向かうのだ。
昨夜は遅くまで寝付けないし、朝からソワソワしてる。
「落ち着きなさい」
トラに早く準備をしなさいと怒られて、顔を洗いご飯を食べる。
少女のトラと俺は、もはや母と息子のような関係になっていた
「大丈夫かなあ……」
俺は何度目か分からない不安を口にする。
この世界の争いもだが、人が沢山いる街にいくのは前の世界を合わせても久々だった。
お陰で食事が喉を通らない。
「私達がいるし、街に詳しいレオも居るんだから大丈夫。いざとなったら逃げましょう。だから心配しないの」
トラは相変わらず慰めてくれるが俺には効果薄だ。
決意しても、やはりトラウマは根深い。
俺の人嫌いが発動してしまっている。
レオや村人との生活で少しはまともになっていても、初対面の人間達にはまだまだ乗り越えなければならない事が沢山ありそうだ。
「大丈夫かよ……」
留守番をするココは呆れながらも心配している。
「決めた事だからな……役目はこなすさ……」
顔色が悪くなっている俺は、明らかな強がりを見せるので精いっぱいだった。
余裕が無く必死だったレオ達との接触とは違い、今の俺は仲間が増え色々考える余裕がある。
嬉しい悲鳴なのかも知れないが、それが必要以上の心配で溢れかえる原因でもあった。
「おーい、準備できたか?」
レオはしっかりと予定より早く準備を終え迎えに来た。
「ちょっと待ってくれ!」
俺は自分の事で精いっぱいになる余りにしばらく村を任せるリュウとココに挨拶をしていなかった。
「じゃあリュウとココ、二人に村の防衛を頼む。俺たちもちゃんと頑張ってくるから、よろしく頼むな」
「ああ、任された。ハルキも気張りすぎて無理をするなよ」
朝の様子を見てたココはむしろこちらが心配の様だ。
「ハルキ! これ持ってってよ!」
リュウは何かを用意していてくれたみたいで、俺に手渡してくれた。
「これは?」
「最近魔物の素材が増えたから、色々試しに作ってみてるんだ! これは通信機だよ! これがあればお互いの様子がどこにいてもわかるね!」
リュウが手渡してくれた小さな箱は、想像よりも素晴らしい物だった。
何となくで作っていい物なのか? とも思ったが、これは今後にも大きく影響する道具だろう。
手放しでリュウを褒めちぎると、喜びを爆発させるリュウ。
「色々作るのも良いけど、無茶しすぎるなよ?」
「ハルキがそれを言えるなら、大丈夫そうだね!」
先程まで不安で一杯だった俺は、この道具を作ってくれたリュウに心まで落ち着かせてもらっていたようだ。
「本当にいい家族に恵まれたよ」
幸せ者だなと、先程までとは別の感情で一杯になった俺は、にこやかに別れの挨拶を済ませた。
「すまない、待たせたレオ」
「大丈夫だ」
レオと一言交わし、俺たち五人は出発した。
「距離的にはここから儂らが居た場所まで向かい、そこから同じくらいの距離を進めば街に続く街道に繋がる。本来は3日程度必要な距離じゃが」
「大丈夫だ、任せろ」
俺はそういうと覚えた魔法を使う。
開拓をしている最中俺たちはハンナに基本的な生活で使える魔法を教わった。
そしてレオからは戦闘に使える魔法を中心に教わった。
元々の身体能力があれば3,4時間もあれば移動が済むだろう。
それに加えて新しく教わった魔法を使う。
この世界では多種多様な魔法がある。
聞く限り前の世界で使っていた様々な道具は、魔法で補える程存在した。
だが基本的な属性というのがある。
火、水、土、風、光、闇、無
それが更に派生すると雷、氷など様々な属性があるが、原点はこの7つだ。
どの魔法も基本的な属性を派生させた物で作られた魔法だった。
魔法名と効果を知っているとある程度イメージがしやすい為、詠唱をするのが当たり前なのだが俺たちはその常識という物が染みつく前に魔法を使えるようになった為、自分達でも魔法を作れるのではないか? という結論に至った。
試してみるとやはり成功した。
そして今使う魔法は、土属性で土台を作り、風属性で浮かせて移動する魔法。
その名も「ジェット」だ!
土魔法で作る土台を維持する魔力と、風を出し続ける魔力、更に高速移動で発生する空気抵抗などを相殺し、人間も快適に過ごせる空間を作る能力も相まって普通の人には真似できないだろうが、幸い俺たちには人ではない者の力が宿っている。
前の世界の知識も合わせればもっと出来る事が増えるだろう。
レオには「化物じゃな」と呆れられたが、俺は自分たちを守るためにはどんな力も使うさ。
これでレオが居ても早く移動が出来るようになった。
勿論人目に付く場所では使うつもりはないので、街道近くまでだが、それでもこの森を瞬間的に進めるだけでも効果絶大な魔法になる。
移動は1時間程度で済んだが、その間に先程リュウから貰った道具をレオに尋ねる。
「さっきリュウから通信できる道具を貰ったんだが、人の街にもあるか?」
道具をレオに渡して尋ねると、最近見飽きたレオの呆れ顔が見える。
「馬鹿言うな、あるにはあるが国や軍で数個所有するほどの希少な物だ。そんな物を簡単に作れるなんてバレると面倒だぞ」
「なるほどな、やはりうちの家族は天才だ」
誇らしげに笑う俺と、もう慣れたと呆れるレオ。
俺たち5人は無事森を抜け街道に出る事に成功した。
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