第20話 今後の動き
村人が増え、本格的に開拓を始めてから1ヶ月。
基盤となる住宅、これから作物を植える農地、狩りや収穫した物を蓄える貯蔵庫などを完成させ、最初に建てた避難所を集合場とし、自由に開放している。
村で器用な人間を数人選び、衣服の制作も行ってもらっていた。
これにより衣食住の心配は無く、生活は軌道に乗ったと思う。
ということで、俺は今後の課題と方針を決める為にまた代表に集まってもらう。
「それでは第二回村会議を始めたいと思います」
1ヶ月ぶり二回目の話し合いだ。
「前回決定した目標は順調に達成し、生活は軌道に乗ったと言えます。今回は今後の課題と方針を決めようと思うのですが、まず皆さんの意見を一通り出して貰います」
ルビーは相変わらずスムーズに進行している。
自分たちの基盤を順調に固めた俺たちは、今後の動きを決めていく。
「俺はハクについて調べていくべきだと思っている。家族とは言えこの世界の守護竜でもあるハクには役割があるのかもしれない。それにこのまま放置している事で危険な事があるのも困る」
何かと知名度があるハクは、今後増えるかも知れない他所との接触によりどんな対応をされるか分からない。
親? か分からないが、この世界に居た聖竜は帝国に討伐された。
ハクの存在を知られたら同じように狙われるかもしれない。
出来るだけ大きな動きを避けつつも、今後のハクの立ち位置をハッキリさせるのも俺たちの役割だと思う。
「儂は帝国の動きを探りたい。このまま放置していては恐らく支配が進むのは目に見えてるだろう。少しでも民を救えるのであれば、儂は出来る事をしたい」
「私たちも徴兵された家族が心配です。出来るのであればまた顔を見たい」
レオや村人代表の面々は王国の民を中心に国の争いに探りをいれたいようだ。
余り争いに関わりたくは無いが、避難民を受け入れた俺は既に巻き込まれているようなものだろう。
それに救える命があれば手を差し伸べたいのも事実だ。
「俺もこのまま世界と関りを持たないのは無理があると思う。それに手が付けられない状況になった時にこの村を守れないのも嫌だから、協力出来る人や勢力が居れば接触しておきたい」
今後は様々な件に巻き込まれるかもしれない、だが俺たちは地に足をつけ、ただ成すがままに巻き込まれないよう抗う力もある。
その力に溺れないよう、俺たちが正しいと思う道から外れないように。
世界との関りを拒絶していた最初の頃の俺は、村人達との関りで少し変わっていた。
いや、変わっていないのかもしれない。
俺は少しこの世界が好きになっているのかもな。
「では今後はハクの事を調べるのと、世界情勢の把握、協力者や避難民の捜索を行っていきましょう」
皆の意見を合わせると、最初にやる事は一つ。王国へ向かう。
平和に過ごせた最初の数か月とは違う。
改めて気を引き締めなおす。
「割り当てを決めましょう」
ルビーは早速具体的な内容を決めていく。
何があるかわからないので戦闘が出来る者が村を空にするわけにはいかない。
開拓も軌道に乗り始めたが、まだ始まったばかりだ。
となると、生産の加護を持つリュウには残っていて欲しい。
今後村人が必要となる物が増えた時に一番対処できるのはリュウだ。
ただリュウもまだ子供、全てを任せるのは忍びない。
戦闘面では家族一のココにも残ってもらいたい。
「俺たち家族からはリュウとココに残ってもらい、引き続き開拓を進めてもらう。他のメンバーは一緒に王国に来てもらいたい」
そういうと明らかに不満そうな顔をするリュウだったが、「この村を任せられるのはリュウなんだ」と言うと逞しく引き受けてくれた。
これは本心からの言葉であって、大人の狡さではない。
「それとハクなんだが、やはり危険が大きいし残って……」
俺が話をしているのを遮りハクが「キュウ!」と大きく一鳴きする。
「いや、流石にそれは危険すぎる」
着いて来たいのだろう、意地でも止めねばなるまい。
俺とハクは全く譲らず顔を見合っている。
するとレオが助言をする。
「確かにハク様の存在は特別故、危険が無いわけではない。ただこれから行くのは王国、帝国に比べて圧倒的に聖竜様を敬う者が多い国だ。それにハク様が直接行かなければわからない事もあると思う」
「だがしかし、もしハクに何かあれば俺は!」
「大丈夫だ、ハルキなら守れる。お主にはその力がある。それと儂も無策で提案して居る訳ではないぞ?」
レオには秘策があるらしい。
「聖竜様には様々な力を持つという伝承がある。その中には人化をする術を持つ、という話もあるのだ」
竜が人化。俺も元の国に居た時に聞いたことがある話だ。
あくまで創作の話だし、ハク自身やる事もないから気にもしていなかった。
「ハクが?出来るのか、ハク」
そう尋ねるとハクはハッ! とした表情を浮かべた後一鳴きする。
するとみるみる人の姿に変わるハク。
背丈は子供、髪は白く、白い布を体に纏う男の子だった。
「まじで出来るのかよ」
俺は素直にビックリしているが、ハクが気まずそうにしている。
「忘れてた、ごめん」
てへっと笑うハクは、自分でも失念していたようだ。
初めて言葉で意思疎通を取る。
ハクに聞くと、自分が聖竜で、ハクという名前である事以外は大半の記憶を失っているらしい。
もしかしたらハクは子供ではなく、力を失った聖竜自身であるのかもしれないな。
俺はそんな事を思っていた。
「この姿なら聖竜様だという事はわからないだろう。何と言うか神々しさのようなものはあるが、流石に人の姿をしてるとはすぐに思う者は居るまい」
レオの知識により王国へ帯同する事になったハク。
俺、ルビー、トラ、ハク、レオの5人で向かうことになった。
他の村人もいずれは迎えるようにしたいが、今は危険が伴う為村人代表からはレオだけとなった。
「それでは第二回村会議を終わります」
今後の方針を固め、俺たちは解散した。
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