第17話 ここを村とする
到着した日はお祭り騒ぎでにぎやかなものになった。
久々にしっかりした建物で寝られると喜んでた村人たちは、中に入って更に驚く。
元々の村に比べても立派な建物に、直ぐに生活を始められる家具や道具が揃ってる。
今まで藁を敷いて寝ていたのに、ふかふかの布団まで用意されているのだ。
その後感謝の嵐で話が進まなかったのは、それだけ俺たちが上手く出迎えられた証拠だと思おう。
何よりも大きな衝撃を与えたのがハクの存在だった。
皆にトラとハクを紹介した瞬間に一斉にひれ伏した。
これにはこちらも驚き、楽な姿勢に戻すのにも一苦労だ。
やはり聖竜というのはこの世界では神に等しい存在だったらしい。
話には聞いていたが、この村人たちの様子を見ると思い知らされるハクの偉大さ。
俺たちはイタズラ坊主としか見ていなかったのにな。
何を誇らしげにしているんだハクよ。
「難しい話は置いといて、今日は皆で宴をしよう!」
今日はこれから一緒に住む事となる皆が初めて訪れた日。
ややこしい事は後に回してお祭りだ!
という案は元々村に迎えに行く前に家族から提案された話だ。
俺も大いに賛同した。皆と信頼関係を築くのが何よりも大きな力になるだろう。
しかし家族が提案した理由は少し違ったようだ。
信頼関係を築くという目的は同じだったが、主に俺が信頼できるようにという配慮だったらしい。
今までは交渉という外面の俺として接していた分心の中に余裕があった。体中に汗をかくほど緊張していた初対面は置いといて。
それでも家族が心配していたのは前の世界での俺を見てきたからだ。
利用され、裏切られ、心を閉ざしてきた俺を見ていた家族は、今後一緒に暮らす事となる人々が負担にならないよう少しでも距離を縮めてほしかったようだ。
頭ではわかってるんだ。レオと集落の人々は争いに巻き込まれ純粋に救いの手を求めている。だからこそ俺は受け入れる事にしたんだ、でもやっぱり怖いとふさぎ込み距離を置こうとする部分はある。
「人は浅ましい事を考える欲深さを持っているが、意外とそれだけじゃないもんだぞ?」
ココが言ったその言葉は、俺に知ってもらいたい部分の全てだろう。
俺たち家族と同じように、手放しに心から向き合える存在。俺が今まで接してきた輩だけが全てじゃないと、まるで子供をあやす親のように。
ふさぎ込んで今までと同じように距離を取るのも簡単だが、今は頼れる家族がいる。
それに今回の移住は俺が決めた事だ。俺も少しは変われるかな。
少し物思いに更けている間に宴の準備が行われていた。
トラは家にいる間にしっかりとご馳走を用意してくれていたのだ。
どんどん運ばれていく食事に驚いていると、村人の女性が何人か手伝いを申し出る。
トラは快く承諾し、あっという間に準備が終わった。
「酒は無いが、心行くまで楽しんでくれ。乾杯!」
俺がそういうと、一段と大きな喧騒と共に食事をする人々。
「こんなおいしい食事がまた食べられるなんて……」
「おい! それは俺が食べるつもりだったのに!」
「これ! 一杯あるんだから喧嘩しない!」
本来この人たちは村でこうして生活していたんだろうな。
今まで辛い思いをして逃げ続けた日々が無駄じゃなかった。そう言えるように俺たちも頑張らなきゃな。
釣られて自然と笑っていた俺に、レオが近づいてきた。
「ハルキ、本当にありがとう。皆がまた幸せそうにしている姿を見れたのは、お主のお陰だ」
真っすぐな目で俺に感謝をするレオ。
この人は裏表のない、素直な人だな。
「こちらこそありがとう。俺たちだって知識も無く不安だったんだ、レオ達がいると助かるよ」
誠意には誠意を。俺も素直に感謝を述べる。
「それでハルキ、これからどうしていくつもりだ?」
「どうしていくって?」
「ここを開拓していたお主の地に人が増えた。あの建物の技術からして、ここは発展していくだろう。ハルキはその先をどうして行きたいのか、聞いておきたい。」
「闇雲に進んできた今までは、先の事など考えもしてなかったな」
俺は夜空を見上げる。
世界の事情を少し知り、ハクという存在が家族になった事の大きさも知った。
俺たちは加護の力で困難を切り抜ける力を持つことが出来たし、そのお陰で向き合えそうな人々とも出会えた。
正直世界規模の争いなんて巻き込まれたくないし、俺は家族が平和に暮らせればそれでいいと思っていた。
それでも目の前で楽しそうにしている人々を見ると思う事はあるんだ。
「そこまで見通しがあるわけじゃないけどさ……レオ達と同じように困った人は沢山いるんだろう?」
「そうじゃな……」
「下手に国に関わるのは嫌だけどさ、皆を見てると俺も出来る事があるかなって。そういう人たちを見つけて、ここで過ごしてもらえたらいいなって思うんだ」
俺たちはこれからどう生きていくのが正しいのか。
神は俺たちを何故この世界に送ったのか。
正解なんてないだろう。
なら俺たちが後で正解だったと思える道を進んでいこう。
「あっハク!」
真剣に未来について考えていると、宴の中にハクが混じっていた。
それは良いんだが、村人たちが手を止めまた地に伏していた。
「皆さんハクは確かに聖竜かもしれませんが、俺たちと一緒に今後も暮らしていくんすからね!特別扱いなどしないように!」
村人たちにとって神と同類だとしても、俺たちはこれから一緒に暮らしていくんだ。
早く慣れてもらわないと。
ハクとじゃれ合ってると村人も少し緊張がほどけたのか、また楽しそうに食事を始めた。
少しずつ、皆が良い方向に向かっている気がした。
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