第16話 護衛と意気込んだのだけれども

 幸い昼頃に準備が完了したため、今日の内に移動を始められる事となった。


 村人たちも皆同意してくれていた為、すんなりと移動を開始できる。

 俺たち4人とレオと村人50名ほどの大移動だ。

 安全な旅を祈るが、何があろうとも必ず傷一つ付けずに送り届ける。

 俺は人一倍気張り先頭を歩く。

 そしてそのまま何事もなく夕方を迎え、野営の準備に入る。


「あれ? 何も無かった?」

 ここに居る誰よりも意気込んでいた為、村の子供よりも疲労感に襲われているかもしれない。

 今も元気に駆け回る子供たちを逞しいなと眺める。


「何事もなく1日目の移動は終わりましたな」

 レオが労りの言葉を掛けてきた。


「ええ……一人で気張ってお恥ずかしい限りで」

 少し肩の力を抜くことも覚えないと、今後何を成すにも不味いかもしれないな。

 そういう意味でも、魔物との戦いを経験しておくべきだったと少し反省している。


「それにしてもハルキの家族は素晴らしい」

 レオは感嘆とした様子でいた。


「そうですか? そりゃ俺の家族は素晴らしいけども」

 誇れる家族だが、特段今日変わった事はしてないだろう。


「とんでもない、ココ殿とルビー殿はあの短時間で往復して戻ってきた。その移動力は世界的にも希有であるし、何よりルビー殿、あの方は何者なのだ?儂よりも早く察知し、近くの魔物を処理していたようだが。今日全くといっていい程危険が無かったのも彼女の動きのお陰だろう。これではハイキングだな」

 笑いながらそう伝えて来るが、俺には全く気が付かなかった。

 確かにちょくちょく移動をしているとは思っていたが、思っている以上に活躍してくれたらしい。


 俺はすぐにルビーの元へ向かう。

 集団の中央から少し離れた場所で休むルビーは、特段疲れた様子は無く座っている。


「ルビー! すまない、レオから聞くまで気が付かなかった。お疲れ様」

 元は索敵として連れて来たのは俺の提案だったのだが、ここまで一人に負担を掛けていたのは申し訳ない気持ちで一杯だ。


「別にいつもの探索とやる事は変わらないから大丈夫よ?」

 余裕そうなルビーは俺よりも既にこの世界に順応しているようだった。


「それでも助かった、ありがとう。俺も守られるだけじゃだめだな」

 今後俺も探索についていこう。このままでも生活は成り立つが俺には守りたい存在がいる。そして今増えていくのだ、経験は積めるだけ積んでおいた方がいい。


 ルビーにその旨を伝えると「抱え込まない様に」と注意されたが、自分を守りたいと言われて悪い気はしていないようで少し耳が赤くなっていた。


 俺はココとリュウにもお疲れと伝えると、村人が集まる場所へ向かった。



「随分と明るいもんだな」

 そこでは女性たちが中心に食事の準備をしていた。

 移動中という事で料理といっても簡易的な物しか出来ないが、ルビーが処理していた魔物の肉を焼いたり、子供たちが走り回るのをにこやかな顔で眺めている姿を見ると、本当にハイキングでもしているのじゃないかと錯覚するほど平和な光景だった。


 これが危機に瀕している世界の姿かと思うと、俺たちにもやれることがあるんだなと少し嬉しくなった。


 夜は交代で見張りをしていたが、認識阻害の魔道具のお陰か魔物の襲撃などもなく、次の日の朝を迎えた。


 朝食は昨日の残りとトラに用意してもらった食事を取る。

 トラは時間が無いのにおにぎりを握ってくれていたらしく、村人に1つずつ配れる程度には用意してくれたようだった。


 一つ一つ配ると村人の中には涙する者もいる。

 レオから聞くと元々村は農業が盛んで、米も作っていたそうだ。

 全てを捨てた彼女たちには、特別な食事となっただろう。

 こちらでも米を作っているという事実も確認できたし、家の周りでも作りたいなと思いながら、トラに感謝し食事を取る。


 片づけを終え移動を開始したが、やはりルビーはちょくちょく移動をしているようだ。

 今回は頼りっぱなしになっているが、後で何かお礼を考えなきゃな。


 結局危険な出来後もなく移動出来た俺たちは、無事家に到着した。

 人一倍緊張し、疲労してた俺にも大きな経験となる2日間だった。

 安堵して一緒に連れて来た村人たちを見ると、様子が少しおかしい。


「何か問題でもあったのか!?」

 ここまで見せなかった姿を見せた村人たちが心配で、レオに駆け寄った。


「いや、ハルキ……なんでこんな屋敷が、こんな森の中にあるのだ……」

 俺の家と、皆の為に作った市民ホールならぬ臨時宿泊所を見たレオが、半ばあきれ顔で訪ねて来る。


 ああ、説明してなかった。

 また準備不足だと、俺は反省し護衛の旅は終わった。

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