第11話 集落と世界情勢

 この集落に住む人々は、元は王国の村の住人たちであった。


 大国である帝国に挑まれた王国は徴兵の為に村の男たちを連れて行き、残った者達は苦しいながらなんとか生活をしていた。そこに帝国の侵略が始まった。


 国境近くにある小さな村を守るほどの余裕は王国にはなかった為、成すすべなく蹂躙されたのだが、そこにレオが現れ住民を避難。


 帝国は悪逆非道だ、村人たちが見つかればただでは済まされないだろう。

 そして近隣の村や町も、新たに人を迎え入れる余裕などない。

 その為にこの森「未開の森」と言われる場所へ集落を作ったのだ。


 この村が生き残れているのは、認識阻害を出来るマジックアイテムをレオが所有していた為、隠れ里の様に生活出来ていた。


 作った集落は水や木の実などがある場所を選んだため生きる事は出来ているのだが、男手不足の為魔物を狩りに行くことは出来ない。

 魔物の強さ的にレオ位しか相手に出来ないのだが、認識阻害をしていても紛れ込む魔物がいる。

 その為レオ自体は離れる事が出来ないものだから、たまにやってくる魔物の肉と生えている木の実などで食いつないでる状況だった。



「なぜ見捨てられるような村に貴方のような方がいたんですか?」

 その話を聞いた俺はレオに素直な質問をぶつける。


「嫌気がさしたのじゃ、人間という満たされぬことのない欲を持つ者達に。儂は少しは名の通る者だったため、常に巻き込まれて生きて来た。最初はそれも心地よかったのだが、歳を取り見えてくる物が増えての。隠居しようと旅に出た時に村に立ち寄ったのさ。人一人強くても相手は多勢の軍。敗走までは持っていけてもその間村人が何人犠牲になるかもわからんので逃げて来た。皆が生き延びる選択肢として今の現状だ」


 こうすれば、ああすれば、などと考えてしまったが、この世界の常識や生活水準さえ知らない。

 国の難民さえ助けられない王国というのは苦しい状況なのかもしれないな。


 それにこのレオという老人は俺と似たような人間らしい。

 ただ一つ違う点は、それでも人を助けようという気概があった事だ。

 俺なんかよりよっぽど強い、素晴らしい人間だった。


 少し気落ちしていた俺にレオが提案と懇願をする。


「お主は拠点を開拓していると言っていたな。出来れば我が集落の人間達もそこに住まわせてくれないか? 先程言った通りこのままではジリ貧でな、お主は渡りに船じゃ。お主たちが迷惑でなければ検討してくれまいか」

 そういうと深々と頭を下げるレオ。


「俺をそんなに信頼していいのですか?」

 そういうとレオはニコッと笑い言い放つ。


「儂は人を見る目は確かでな、お主から放たれる言葉に嘘など見当たらなかった。理解は出来ぬが、信頼は出来る」


 人からこんなに素直な好意を持たれたのはいつ以来だろうか。

 汚い人間が利用しようと近づくそれとは真逆の、素直な好意と助力を頼まれて、俺は悪い気がしていなかった。


「俺としては構わないのですが、家族に相談しなければ……」

 という俺を遮るかの様にココが口を挟む。

「ハルキにはさっきも言っただろ? 俺たちはお前を支える。だからハルキはハルキが正しいと思う道を選べ。俺たちはそれに付いていくだけだ」


 ココに言われて少し目が覚めた気がする。

 ここに居るのは今を生きる事さえ必死な人々。

 助けてほしいという素直な求めを向けられて、困惑していたのかもしれない。

 この気持ちに応えたいという自分の気持ちさえ置き去りにして答えを人任せにしようとしていた。

 今の俺は一人じゃない、たとえこれから困難があろうとも家族がいる。

 なら俺も俺と向き合う事から逃げる訳にはいかない。

 俺はこの人たちを助けたい。


「わかりました、まだ我々の土地は開拓の途中なので不便をかけるかもしれませんが、皆さんが良ければ来てください」

 俺がそういうとレオはありがとうと何度も頭を下げ、感謝を伝える。


「移動するときは俺たちも護衛に回ります。皆さんの意思を固めるためにも日を改めましょう。それまでよろしくお願いします」

 そういって俺は持ってきた物を渡す。

 運んできたといってもココと俺は並大抵の力では無いため、集落全員が腹を満たすには十分なほどの量があった。


「何から何まですまない、迎えは3日後にお願い出来るか。帝国兵から逃げて来て心が疲弊している者もいる。必ず3日後までには一つに纏めるさ」


 お互い約束を交わし、俺たちは村を後にする。

 去り際に隣に居た娘が何度も頭を下げて来た。


 俺たちがこれからやる事は決まった。

 ココと帰りながら、頭の中では3日間の作業を思い浮かべていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る