第10話 長との交渉

「ちょっと待ってください! その剣を収めてください!」

 俺は気が動転してしまい、とにかく場を収めようと叫んでしまう。


「いきなりこの森の奥地に住まう我々の集落にきたのだ、余程の理由があるのだろう。そしてこの地を見つけられたのだ、生きては返すまい」

 そういうと老人は覇気のような物を纏い、こちらへ攻撃を仕掛けてきた。


 キィーン!

 剣のぶつかる音と同時に風が舞い上がる。


「おいおい爺さん、いきなり切りかかるのはねえだろ?」

 ココは余裕の表情で剣撃を受け止めている。


「お主、何者じゃ……?」

 一層脅威を感じ取った老人が距離を取る。


「ちょっと待ったー!」

 俺は目の前で繰り広げられる戦闘を早く止めねばと危険も顧みずに両者の間に飛び込む。


「話を聞いてください!こちらに攻撃や害をなす意図は全くありません!」

 そういうとココに剣を収めさせる。

 というかココいつの間に剣なんて持ってたんだ?


「ふむ、しかし……」

 戸惑う老人に対し俺は味方であることを畳みかける。


「俺たちも事情がありこの森で住まう者です!こちらへは友好を深めようと手土産を持参しました!それがそちらに!」

 散々ビビッて冷や汗を掻いてた先程が嘘かの様に口から次々言葉を発していた。


 いきなりの戦闘に腰を抜かしてた女性が伝えてなかったのか、それともこの老人の性なのか。

 いきなり訪れた人間にあんな攻撃を仕掛けてくる程気が立っていたのだろう。

 俺たちの後ろに置いてある肉や魔物の素材をやっと発見した。


「む、あれはブルホーンの……しかもその鱗は!」

 そういうと一層警戒を強めた老人。

 しかし先程のような攻撃を仕掛けるつもりは無さそうだ。


「俺たちを信用出来ないのはわかります、ですが話をさせてください。それまでは村への立ち入りは一切しません、勿論危害を加える事も致しません」

 この世界に来る前は避け続けた人間との交流。

 自分自身こんなスラスラと言葉が出ている事が不思議だった。


 相手は老人とはいえ、半端の無い攻撃だった。

 こちらの事情も聞かずに仕掛けてくる姿は、以前の自分と重なるものがある。

 人間は悪、自分に害を成すもの。

 常に世の中との関りを避け続けた自分だからこそ、分かるものが少しあったのかもしれない。



 少し考え込む老人。

 腰を抜かして座っていた女性が老人に声を掛ける。


「レオ様、お話だけでも聞いてみませんか? 少なくとも害はなさそうですし……」

 そういってこちらを見るので、勿論ですとばかりに両手を上げぎこちなく笑ってみせた。


「そうじゃな……ただし何かしようとした場合、直ぐに排除する。わかったな」

 レオと呼ばれた老人は、見た目とは裏腹に獅子のような気配を漂わせこちらを威嚇してくる。


「勿論です!」

 焦った俺は即答し、頭を下げた。


 それにしてもココは余裕そうにしている。肝の据わった兄さんだ。

 俺なんて今にも逃げ出したいのに。



「儂はレオじゃ。この集落で一応長と呼ばれているが、ただ守る事しか出来ぬ老人じゃ」


「俺はハルキと言います、隣に居る者はココ、俺の家族です」


「お主らの要件はなんじゃ? こんな所に来たのだ、ただならぬ理由があるのだろう」


 理由なんて最初から言ってる、ただ交流を持つだけ、それだけだ。


 この世界の事についてわからない事ばかり、ただ闇雲に隠居するだけだった、平和な前の世界と違うかもしれない。

 このまま生活していても、いずれ危険な目に合うかもしれない。

 家族を守るためには、情報の一つもないのは心許ないのだ。



「俺たちは情報と、この村との交流を持ちたい。それ以上でも以下でもありません。」

 簡単に、嘘偽りのない要求をする。


 ジッと俺の目を見つめたレオは「嘘はいってないようじゃな。」と剣を仕舞い、「すまなかった」と先程の攻撃の詫びを言う。



 やっと話を出来る状態になったレオに俺は、現状の自分たちの状況を含めて説明する。

 別の世界からやってきた事、この世界に対する知識が無い事、この森に拠点があり開拓を進めている事、近くで見つけたこの集落とは友好的な関係になりたい事。

 それらを一通り説明している最中、レオは俺の目を見続けながら黙って聞いてくれた。



「信じられない事が何点もあるのだが、お主から偽りの気配が無い。儂にもわからぬ事はあるが、この世界の事くらいは教えられよう。それにあんな贈り物まで貰ってしまってはな」

 そういうと肉と素材を指さし、頭を下げるレオ。


「頭なんて下げないでください! あれくらいの物であればまた持ってきますから」

 俺がそういうとレオはまた考え始める。


「お主たちはブルホーンやアースドラゴン、他にもあそこにある素材の魔物を狩る力があるのか?」

 レオは真剣な眼差しで聞いてくる。


「俺はまだしっかりと確認していませんが、少なくともココや家にいる家族は倒せると思います」


「いや、ハルキの方が強いからな?」

 ココは苦笑いを浮かべながら口を開く。


 するとレオは口を開き、この集落について話をしてくれた。

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