第9話 初めて会う人間は

「じゃあ行ってくる。皆無理のない程度によろしくな」

 ココを連れて集落に向かう日、皆が見送りに来てくれていた。

 決めていた通り残りの家族は家周辺で活動してもらう。

 リュウが張り切りすぎたり、ハクがやんちゃしたりしないか心配だが、トラとルビーがいるので大丈夫だろう。


「気を付けていってらっしゃい」

 トラは少し心配そうだ。


「大丈夫、必ず元気に帰ってくるよ」

 笑顔を見せる余裕がある、大丈夫だな、俺。


 予想外の出来事があるかもしれないし、すんなり上手く行くかもしれない。

 分からないが、家族を置いていなくなる事だけはしない。


 必ず帰ってくるよ。

 改めて心の中で呟き、俺とココは出発した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ルビーと見た感じだと、老人や子供が大半だったかな。若い女性はちらほら居たが、働き盛りの男なんかは見なかった」

 ココが村を偵察した時の状況を説明してくれた。


 この世界がどういう状況で、国や文明さえどうなっているかまだわかっていない。

 だが人が存在している以上争いは避けられない。

 戦争や抗争などのトラブルを抱えている場合もある。

 可能性としては考えていたが、割合を見るにやはり……


「若い男がいないのは、理由があると見て良いだろうな」

 何かしらの理由でそうなっていると、ココも同じ見解をしていた。


「少なくとも人里から離れた、魔物が巣食う森林にある集落だ。警戒心を持たれることは確かだろうな。どうやって相手に味方だと思ってもらうかだが、やっぱ会ってからじゃないとわからないよな」

 出来る限りの危機回避が出来るよう考えているが、この点はどうしても対面してからじゃないとわからない。


 前もって準備出来たのは、贈答用として持ってきたブルホーンの肉やアースドラゴンの鱗その他諸々の手土産だ。


 ちなみにこのアースドラゴン、前にココとルビーの探索で持ち帰ってきた例の爬虫類の素材なのだが、ランクがSと読み取れてしまった事は頭の隅に置いている。

 家族共々とてつもない力を備えているが、俺の願いは家族との安寧の生活だ。

 むやみやたらに誇示したり利用することが無い様にしたい。


「とりあえず対策は後で考えるとして、このままゆっくり散歩していても仕方あるまい。ハルキもこれだけの距離を移動するのは初めてだろう、少し急ごう」

 ココは少しニヤっと笑うと、一目散に駆け出した。

 駆けだしたというか、もう見えなくなりそうな距離まで進んでいる。


「ちょっと待ってくれよー!」

 そんな事を言いながら俺もココに追い付こうと全力で走る。


 こうして村まで50キロ程度と言われていた距離を、1時間程度で移動してしまった。人間なのに車並みだね。



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「ここが村かー……」

 集落を見渡せる高台に着いた俺は様子を見る。

 

 村と言うには余りにも質素。

 簡単に木と葉を組み合わせた家のような作りのテントがちらほら見える。

 警備してる人はいなく、子供がちらほら見えるが老人は多くは無さそうだ。


 それよりも問題は若い大人が少ない、報告通りだ。

 女性が数人村人の世話をしているが、それでも少ないな。


 不思議に思ったのが、この集落が何故存在しているのか。

 少なくとも俺たちが生活しているこの森には沢山の魔物が居た。

 それも恐らく上位の強さを持つランクばかりだ。

 戦えそうな人間は見当たらないし、警戒さえあまりしていない。

 ここら辺の事情も追々聞いておきたい。


「とりあえず報告通りの様子だね。まずは穏便に接触しよう」

 そういうと俺とココは村の入口に向かった。



 着いたはいいが、いざ人に合うとなると胸が苦しい。

 人間の姿になった家族は別として、こうやって人と向き合うのは何年ぶりだろうか。

 必要以上に接触を避けて来た弊害が、体に浮かぶ汗として表されている。


「……すみませーん……」


「そんな声じゃ聞こえないだろ、すみません!」

 ココが代わりに呼び掛けてくれた。

 不必要な警戒を与えない様に、村には立ち入らず外から接触を試みる事にした。



「……誰?」

 そういうと、物陰に隠れるようにこちらを覗く女性が声を掛けてきた。


「すみません、怪しい物じゃないのですが」


「そういう奴は大抵怪しいんだよハルキ、すみませんこいつ人見知りが激しくて」

 そんな掛け合いをしていたのだが、いきなり現れた二人に警戒した女性は怯えた表情を浮かべている。



「最近この森で生活し始めたハルキと言います。この村を見つけたので皆さんと交流を持ちたくてやってきたのですが」

 そういうと手土産に持ってきた肉や素材を自分の前に置き、頭を下げて三歩ほど下がる。


「帝国の人間じゃないの?……それにこれ!?」

 そういうと女性は目の前に出された肉を見て驚く。


「怪しい人間だと思いますよね……。なので許可を得られるまで決して集落には立ち入りません。誰か代表して話の出来る方は居られますか?」

 出来るだけ丁寧に、無害だとアピールする。


 女性はしばらく考え込み「少しお待ちください」と言い集落の中に入っていった。



「どうなる事かと思ったが、いきなり衝突は避けられたようだな」

 ココがハハッと笑いながらこちらに向けて言ってきたが、俺は体中に汗を搔きながら頑張ったのだ。

 今すぐにでも座り込みたいが、ここからが本番なのだ。

 気を引き締めないとな。


 少しした後に奥から先程の女性が初老の男性を連れてやってきた。


「初めまして旅の方、あなた達は何のためにここへいらしたのかな?」


 右手に剣を携えたおじいさま、どうか納めてください。

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