第8話 初めて会う人間は 前夜

 ハクがやってきた日から数日は慌ただしく過ぎていった。


 リュウは率先して柵作りを行い、2日で出来るのでは無いかと思っていた作業をしっかり終えていた。

 普通なら月単位、大人数なら週単位も掛かるであろう作業を小さな体で熟していく姿を見て、改めて違う世界に来たのだなと実感していた。



 ココとルビーは相も変わらず周辺の探索に出ていた。

 主に地形の把握と今後必要になるであろう素材や食料を集めてもらう、一家の大黒柱になっている。


 流石の働きというべきか、ある程度の距離は大体把握できたようだ。

 周りはほぼ森が続き、中には神話の世界のような生物も確認したらしい。

 目の前にあるこの巨大な爬虫類の鱗や翼がそうなんだろうね、頼もしいね。


 その中でも一際朗報だったのは、ここから50キロ程度離れた所に集落を発見したという報告だ。

 元はペットだったため、人とのかかわり方を間違えるかもしれないと接触はしていないようだが、少数の人間は確認出来たようだ。


 気づかれないよう更にその周辺を探索したようだが、新たな集落どころか人が利用していそうな道も見つからなかったようだ。

 少し事情があるのかもしれない。皆に危害が及ばないためにも、慎重に接触する必要がありそうだ。



 そしてトラはというと……


「ハク! またイタズラして! まったくもう……」

 ハクとのバトルに四苦八苦しているようだ。


 どうもハクはまだ幼いらしく、元気を取り戻し皆に懐いてくれたのは良かった物の自由奔放な性格らしい。

 今も洗濯ものに飛びつき地面でじゃれている。


「キューキュー!」

 かわいいね。でも俺のシャツが泥だらけだね。


 ニコニコしながら眺めていると、トラに「ハルキもちゃんと叱ってよね!」と怒られてしまった。

 でも俺は元来生き物が大好きなのだ、こんな可愛い毛玉を叱るなんて出来ない。


「ハクーこっちおいで」

 そういうとこちらにやってきたハクを抱きかかえてモフモフする。


「まったく甘いんだから……」と小言を言われているが、俺の欲が勝りその後もモフモフしていたのであった。



 ともあれある程度今の目標は達成出来たようだ。

 自分たちのセーフティーゾーンの確保、勿論ある程度の魔物に対してだがこれでやたらと危険な状況に陥る事はないだろう。

 食材もしばらく困らない程度には備蓄出来た。

 今は余しているが色々使えそうな素材も確保出来たし、これから利用していこう。


 そして人里の発見。やや特殊な事情を抱えていそうだが、俺はとりあえず接触を行おうと思う。

 家族会議を行い、皆と意見を共有する事にした。



「とりあえず現状は十分すぎる程の成果が出ていると思う。これから俺は人里の接触を第一に行いたい」


「そうだな、接触はハルキがいた方が良いだろう。俺は護衛で一応ついていく」

 そういうとココが他の3人と1匹を見て、


「ルビーは家付近の警戒を行ってくれないか。大丈夫だと思うが、まだわからない事が多い世界だ」


「わかったわ。あの村までなら予想外の事態もないでしょうし、この家でお留守番ね」

 ルビーがいるなら安心だ。僅かな危険も察知出来るだろう。


「俺は!? ついていっていいの!?」

 興奮気味に反応しているリュウは、好奇心旺盛な犬の本質なのかついて来たいようだ。


「リュウはこの周りの開拓を続けてくれないか。せっかく広げた土地だ、畑でも作ってくれ。幸い植えられそうな種を何種類か見つけてあるから、育ててみよう。育てられるかどうかわからないが、リュウなら任せられる」


「! 任せて! 立派な畑を作るよ!」

 ココはリュウの乗せ方も上手かった。

 任せるなんて言われて嬉しくない男の子はいないだろう。

 早くもやる気満々なリュウであった。


「私は今まで通り家の事を中心にやっていくわね。ハクもいるし目が離せないわ」

 トラお母さん、ありがとう。



 という事でこれからの方針は決まった。

 上手く人と接触出来るだろうか。

 元の世界では拒絶した人間とうまく関われる自信は無い。

 それでもこの家族と居る上で、このままここに居る事が最善だとも思えない。

 何があっても良い様に、可能性は広げておくべきだ。


 慎重に、でも臆せずに。

 俺が出来る事をやっていく。



「不安そうだな」

 ココが察して一言掛けてきた。


「俺が上手くできるのか、不安なんだ」

 隠さず本音を言える、家族の存在がありがたい。


「深く考えすぎるのがハルキの弱点だな。思慮深いのは良い事だが、世の中に答えなんてないんだ。ハルキがやると決めた事なら、俺たちは全力で助ける。だから迷わず自分の正しいと思うようにやっていけ」

 その言葉を放つと皆がこちらに向かって任せろ、といった表情をしている事に気が付いた。


「ありがとう。俺も変わらないといけないな」


 不安と恐怖でふさぎ込み、拒絶の道を選んだ前世。

 ならば勇気を持って、共存の道を探そう。

 こんな心強い家族がいるんだから。



「キュー!」

 胸に手を当てるハク。


 かわいいなあ。

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