第5話 新たな世界で家族団らん

「ハルキ? ぼーっとしてどうしたの?」


 女の子、いや、トラはこちらを心配そうに見つめている。



「今、神様と話をしてきたよ。本当にトラなんだね」


 この不可思議な状況で、唯一納得出来るのが一番非常識な答え。

 俺の家族はこうして人として姿を変え、俺の前に居るのだ。


 それでも俺は嬉しい。

 家族と離れ離れになる運命が変わった。


 色々求められる事は無い。

 有るがままに生きてもいいこの世界で、また家族と暮らせる。



「泣いてるの……?」


 トラは心配そうな顔をしてこちらを覗いてきた。

 となりにいるリュウは戸惑いあたふたしている。



「ごめん……嬉しいんだ……」


 今はこの事実にただ感謝しよう。

 今まで信じてこなかった神に、俺は初めて感謝した。



「よしよし、怖かったねハルキ。これからもずっと一緒だからね」


「そーだぞハルキ! それに話も出来るようになったからな! もっともっと遊んでくれよ!」


 自分より小さい子に撫でられているのに、まるでお姉さんのような温もりを感じる。

 ああ……俺は幸せだ。



「よおハルキ、目覚めたか」


 玄関を見ると、そこには青年と大人びた女性が立っていた。



「ココとルビーか……?」


「その様子だと事情は聞いているみたいだな」


 そういうと二人は俺たちの座っているテーブルにやってきた。



「改めてよろしくなハルキ」


 ニコッと爽やかな笑顔を浮かべ、手を差し伸べてくるココ。



「ああ、よろしくな」


 握手をして、俺は一礼をする。



「そんな改まらないでよハルキ。私たちは家族なんだから」


 そういうと可憐な姿をしたルビーが困った顔をしている。



「ごめんなルビー。わかってはいるんだが、未だにその姿に慣れなくてな」


「それもそうね。でも本当によかったわ、あの時は本当に……」


 そういうとルビーは悲しげな表情を浮かべる。

 そんな姿に少しドキッとしつつ、俺は少し笑ってしまう。



「何がおかしいのよ!」


 怒られてしまった。

 ごめんごめんと謝りつつも「ルビーが本当に俺の事を考えてくれていたのが嬉しかったんだよ」と言うと、今度はルビーが照れてしまった。



「それでハルキ、一旦情報をまとめよう。一家団らんはその後だ」


 ココはとても頼りになるお兄さんだ。

 その冷静さで皆をまとめようとしてくれている。



「まずハルキ、ここは別の世界だと言うのは聞いてるよな。今いる所は森の深くらしい。ルビーと周りを探索したが、人の痕跡はまるで無かった」


 俺が倒れている間に色々調べてくれていたようだ。



「ココ、ルビー。色々調べてくれていたのは助かる。でも危険だ、この森にも恐らく魔物がいるはず。二人が危険に晒されるのは心配だ」


 何があっても俺はもう離れたくない。

 大好きな家族と共に居たい。



「安心しろハルキ、聞いてないか? 力を貰ったって」


 ココは笑いかけてくる。



「ハルキを含め俺たちは神の加護で力を貰った。ハルキはまだ試してないからわからないだろうけど、そこら辺の相手なら一発で倒せるぞ?」


 そういうと皆がこちらに顔を向けてニコニコと笑顔を向ける。



「そーだぞハルキ! 俺も近くに居たウルフと戦ったけど、遅いしこっちの攻撃一発で倒れるし! そんなに心配する事ないぞ!」


 リュウは鼻息を荒くして捲し立てる。



「落ち着けリュウ。まあハルキ、そういうことだ。俺たちは皆体と魔力の強化がされている。大抵の魔物には負ける事は無いぞ」


 ココは、俺に対して安心させようと説明を続ける。



「そこはハルキも後で確認しよう。それで俺達には一つ力を授かっている。俺は戦闘に特化した加護だ」


 神様が力を授けたと言っていたな。

 ココは戦闘、ルビーは索敵、トラは回復、リュウは制作の加護を得ているらしい。



「とりあえずこれからの目標は、自給自足の生活の確保と人との接触だな」


 ココはしっかりと先を見つめ提案してきた。



「はは……俺はいらないな。皆本当に大したものだ」


 思わずポロっと口に出た。

 助けて貰ってばかりだ、俺は何が出来るのだろうか。

 これからの生活も皆に頼りっぱなしになるだろう。

 少し情けなさがあるが、そんな本音を誰かに言う事なんて今まで無かった。



「何言ってるんだハルキ?」


 ココがそういうと、皆が不思議そうな顔をしていた。



「ハルキには家族の絆って力があるだろ? それがあるから俺たちは通常より力が出るんだ。勿論ハルキ自身にも効果があるはずだ。それに俺たちは家族だろ? 家族が協力しあう事の何がおかしいんだ」


 ココはさも当然というような顔を浮かべながら問いかけてくる。

 俺は誰かと助け合う事などしてこなかった。

 人を恐れ隠れていた俺には、協力しあうって事がよくわからなかった。



「確かにこれからも困難はあるかもしれない、でも俺たちは今ここに居る。終わりじゃない、ここから始まるんだ。死をも乗り越えたハルキと俺たちなら、何とでもなるさ!」


「そうだよ! ハルキと一緒に居られるなら私達はどこにだって行くんだからね!」


「ハルキじゃなきゃ嫌だ! だからもっと頼ってよ! 俺もハルキとまだまだ遊びたい!」


「ハルキが居なきゃ私たちもここにいない。あなたが繋いだ絆なんだから」


 心配すんなってと言うように、皆が俺を励ましてくる。


 そうだな、俺は家族の一員だ。

 何も出来なくたっていいんだ、これから出来る事を増やしていけばいい。

 皆がいる、それだけで俺が生きる理由になる。



「すまないな皆。俺も皆と一緒で幸せだよ」


 心の底から出た一言が、その場を包んだ。



 その後話し合いをして、今後の方針を決めた。


 俺は付近の開拓を進める。

 手始めに畑を作り、生活の環境を整えていく。


 ココとルビーは探索と狩りを担当。

 少しずつ範囲を広げていき周りを把握、最終的には人里を見つける。

 魔物は素材にも食用にもなるらしい。

 今この家にある在庫が無くなれば食材が無くなるため、とてもありがたい。


 トラは家事をこなしつつ俺の手伝いをこなしていく。

 今まで一人で身の回りの事をしていたので、家族が出来た実感がより強く感じる。

 勿論俺も協力するけど。


 リュウは生産に長けている為、道具などを主に作ってもらう。

 魔物が生息している為、防備は急務だろう。

 生活に必要な道具も作っていってもらう。



「じゃあ明日から、皆よろしくな」


 俺は皆にそういうと、今日は一日ゆっくり過ごそうと提案した。


 これから忙しくなる日々。

 でもまずは今皆とこうしていられる事に感謝をする。


 知らない世界に放り出されて不安で一杯なはずなのに、俺には心強い家族がいる。

 それだけでしばらく味わっていない幸せを感じていた。

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