第4話 神様と名乗る人物

 真っ白な世界。


 床と壁の感覚も無く、自分が今立っているのかさえ分からない不思議な空間に飛ばされた俺は、目の間に佇む人物を見つめる。


 人だとわかるが、性別も年齢もわからない。


 ただ本能でわかる、自分とは違うだと。



「あなたが神様ですか?」


 口から出た言葉は普段なら正気を疑われるようなことだった。

 だが先程の話と、目の前に見える光景にそれ以外の言葉が見当たらなかった。



「はい、私はあなた方がいう神様という存在です。正確にはこの世界を見守る管理者の立場にいるのですがね」


 表情は変わらずに冷静に返す神様。

 その言葉一つに神々しさを感じる。

 神を信じていなかった俺でさえひしひしと感じる威厳。



「何故俺たちが別の世界に飛ばされたのでしょうか。それに俺は恐らくもう……」


「はい、確かにハルキ。あなたはあの時亡くなりました」


 やはり俺は一度死んでいた。



「私は皆を見守る存在、決して世界の理に介入することはありません。あなたは亡くなった。その魂は弱く、ですが輝いていた」


 俺は人生に絶望し、隠居していた。

 家族とただ過ごす日々。


 ただ俺にとってそれが生きがいとなり、自ら命を絶つことをしなかった。



「ハルキとあの者たちの絆は、とてもとても強い物でした。人は、生き物は自分の命を落とすとき、どのような感情であれ自らの事を考え終わるもの。ですがあなたは違った。家族の事だけをただひたすら想い、生を終わらせました」


 そう、俺はただただあいつらの事だけを考えていた。

 別に俺が幸せだったかどうか、人生がどうだなんて考えもしなかった。

 ただひたすらに残してしまう家族の幸せを考えていた。



「人と動物。その間に生まれた絆は何よりも強く輝いていた。だからあなた達に可能性を感じ別の世界に送りました」


 可能性?確かにただ意味もなく世界を超えて生き返す必要などない。



「何か目的が?」


 思わず呟いた。



「はい、私はあなた達に可能性を感じたと言いました。別の種族が何者にも負けない絆を生む事がある。あなた達ならこの世界に希望をもたらすのではないかと」


 希望?大げさな事を言われた。

 俺は世捨て人、社会から逃げだしたのだ。



「俺はただ逃げていただけです。あいつらがいなければ生きる事もやめていたでしょう。そんな人間が世界の希望なんて……」


「心配しないでください、別にそれを使命に生きよ、などと言いません。少し私の私情もあるのですよ?」


 そうすると笑うような、初めて感情らしきものが神様から見えた。



「この絆がどれだけ強く輝くか、生物の可能性を見たいのです。それが周りを巻き込むほどなのか。あなた達はこれからも自分達が思うがままに生きてください。世界を救えなど言いません。ただ世界すら巻き込むほどの可能性を、あなた達に感じ興味を持ったのですよ」


 大きく見られたものだと少し気が引けていたが、強制される訳ではない。

 少し安心できた俺は、他に質問してみる。



「それで飛ばされた世界ですが、どのような世界なのでしょうか。地球と同じ環境なのですか?」


「この世界は人がいて、動物がいます。ただそれだけではありません。人と同じ知能を持つ人ではない存在。例えばエルフやドワーフ、獣人などもいます。更に動物ではなく、魔物と呼ばれる生物もいます」


 俗にいうファンタジー世界に転生した。

 夢にまで見る人もいるだろうが、俺は命の危険がある世界に飛ばされた事に少し落ち込んでいた。



「文明的にはあなた達が生きた世界程進んではいません。そこはあなたの目で確かめてください。後は魔法なども存在します。勿論あなた達も使えますから安心してくださいね?」


 安心とはなんなのだろうか。

 俺は今さらファンタジーに夢見る少年心など持っていない。



「この世界は元の世界より命の危険性があります。だからあなた達には力を与えています。家族を守れる程度には私も加護を与えましたからね」


 最初から変わらず淡々と説明しているが、何故かこの神様からは人間臭さを感じる。

 お茶目というには少し度が過ぎているが。



「家族の方達には説明しているので後で聞いてくださいね。それではあなたに与えた能力の説明をします」


 そういうと神様は俺に授けた能力を教えてくれた。


 身体能力の上昇、魔力の上昇、異世界の言語の習得、生物や物の鑑定、そして家族の絆という能力だった。



「他はわかるのですが、家族の絆というのは?」


「それはあなたが築いた絆が強くより多くの存在と繋がる程、貴方とその絆を持つ存在が力を得る能力です。あなたが家族と繋がる程の強い絆を、他の者達とも築ける事を祈っていますよ」


 そういうと周りの世界が輝きを増し、おぼろげになっていく。



「私は皆を愛してます。あなたを愛しています。どうか幸せに。願わくば光り輝く人生を」



 神様がそういうと目の前が真っ白になり、俺は先程まで食事をしていたテーブルに居た。

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