SIM認証

 スマホアプリで玄関前に自動運転車を呼んだ。

 産業道路沿いのマックとモスを素通し、マツキヨで安売りのパンを買う。

 けやき通りをぐるっと回ってTUTAYAでSIMカードをレンタル。

 帰りに酒ワールドで角瓶を買って、南インター近くの簡易宿にチェックインした。


 とても妻と二人でプライベートを共有する気分じゃない。

 バックパッカー向けでネット完備のホテル。

 備え付けのタブレットにSIMを差し込んで、Wi-Fiで認証すると時代劇専門チャンネルが始まる。

 やるせない時はできるだけ現実離れしたい。


「ただいまー」

 夜半にホテルの部屋に戻ると、妻は服をつけないままいびきをかいていた。

 パンツのゴムが伸びきった妊娠線を申し訳程度に隠している。

 燃料気化爆弾乳頭の四十路に王手がかかった女、

 醜悪だ。今の敦彦とどちらが醜悪だろう。


 じつにホラーきわまりない。

 TVがつけっぱなしになっていて、アメリカ同時多発テロを回顧している。

 『私は、敗北主義者だ。』





 これは、狂信者が虐殺したユダヤ人捕虜の首にぶら下げた札の文句だという。

 敦彦はひとりごちた。俺は敗北者なのだろうか。

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