プライベートビーチ
ホテルは高級マンションを思わせるつくりで、出来る限り旅情を排除している。ここは長期滞在を前提とした居住施設で、非日常に現実を持ち込みたい客層を相手にしている。
敦彦はフロントを出て、潮風に当たろうと考えた。
久しぶりのプライベート空間。頼子、典子、紗代、女所帯に追いやられて息苦しい日々を送っていた。
しがらみから解放されると、世界が百光年先まで広がった。
ホテルのプライベートビーチ。
目の前はトルマリーンブルーの海。
生簀に魚が跳ねていて、専属のインストラクターが投げ釣りを教えてくれる。
敦彦は宿にありったけの予算をぶち込んだ。
竿を餌付き500円で借りる。仕掛けはサビキ。ゴカイのような生餌を使わない。糸についた小さな籠にコマセを入れて投げる。
ハードルが低くて女性や子供でも手軽にできる。
突堤の先には小さな子供を連れた家族で賑わっていた。5歳ぐらいの男の子が跳ねまわるアジに面白がっている。
あの子は十年後も笑顔のままでいられるだろうか。
敦彦は遠い日の娘たちに親子連れを重ねた。あの家族と事実上家庭内別居の俺。どこでボタンを掛け違えたのか。
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