パニック障害

 パニック障害を抱えた二人の受験生をもつ母親。その重みは男の能天気な演出で軽減されるものではない。


「あなたのせいよ! 隠れ家に行こうって、逃げるようにして来たのに。わたしを追い詰めないで!!」

 頼子はスリッパをつっかけたまま、廊下へ出ていった。フロア奥の自販機コーナーはシンと冷えていて、静かだ。彼女は来たそうそう、女の嗅覚で拠り所を見つけ出した。


 チェックインを済ませて、予約してあった海鮮レストランに行こうと誘っても、青ざめた顔を振るだけだった。


 あげく、敦彦が周到に仕組んだ罠だという。女はどいつもこいつも他罰的な生き物だ。ちょうど、塾の受験直前合宿とやらに娘二人が参加する。そのタイミングを見計らって、行こうといいだしたのは敦子の方じゃないか。敦彦は仕方なく二人分の生け作りを酒で流し込んだ。


 敦彦はフロントに無理やり頼み込んで、自販機コーナーのソファをベッド代わりにした。

 頼子は相変わらず何かにおびえたままで、敦彦も眠れない朝を迎えた。宿泊客の迷惑になるからと、ホテルマンに促され、頼子は島の診療所に向かった。

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