宮古島
そう、あれはまだGoToなんて言葉どころかインバウンドという単語すら一般人の記憶になかった頃の話だ。
鈴木敦彦は季節外れの南の島へ家族旅行をした。
パスポートのいらないバカンスがいい。
疲れた妻の希望を聞き入れて、宮古諸島を選んだ。
子育てに人生の半分を消耗したアラフォー世代。自分を大切にする、なんて、馬鹿げた広告の惹句に惑わされず、過干渉にならない距離感を保ってきた。
籍は入れていない。事実婚というやつだ。失われた三十年に足を踏み入れた日本でようやく世間の理解を得られるようになってきた。
青い海に面した宮古島のホテル。夜風がざぁざぁと世界を丸洗いするかのようだ。
冬の宮古島に台風は来ない。晴れた夜でもサトウキビ畑を渡る風が嵐のように騒ぎ立てる。
ホテルの周辺に民家も高層マンションもない。
風の舞踏会を邪魔するものは何もない。
素敵じゃないかと敦彦は悦に入った。
わたしを苦しめたいの、と妻が掛け布団を被った。
下地島空港に着いた時から様子がおかしかった。だが、南国の明るい陽気に照らされて頼子の心も晴れるだろう。そう敦彦は勝手なシナリオを描いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます