第6話 『決闘』
アウラの授業が終わり放課後。
ノルンと別の授業を受けていたので、一人になってしまった。
まぁノルンの授業が終わり次第合流してもいいのだが、特に約束をしていたわけでもなかったため、手持ち無沙汰になってしまっていた。
アウラはアウラで用事があるとのことだった。
「んー……」
留学に来て一人になることがなかったためなんだか新鮮な気分ではある。
ノルンにもらっていた生徒手帳の地図を眺めていると、校舎の屋上があることに気付く。
「……行ってみるか」
屋上までさほど距離があるわけではなかったので、時間もかからない。
解放されてはいるものの、他にエルフ達は居なかった。
適当に腰を降ろして休もうかと思ったところで、エルフ達の声が聞こえてくるのに気づいた。
屋上の端まで来ると、エルフ達が集まっていた。
中心でエルフ二人が対峙しており、周りを数人のエルフ達が囲んでいる。
中央のエルフ達が距離を取って、手を構える。
次の瞬間、魔法が発動していた。
「おー」
それから、二人のエルフが魔法を撃ち合い始めた。
見たところ、一対一の演習のようなものなのだろうか。
一人のエルフが魔法を撃ち、それをもう一人が返していく。
二人の実力は拮抗しているのだろうか、魔法がぶつかり合うたびに互いの魔法が相殺されている。
何度も同様の展開になり、魔法が撃っては打ち消されを繰り返していく。
炎や水、雷のような魔法がいくつか飛びあっていく。
少しそんな時間が続き、一人のエルフが体力の限界に来たのか、足を滑らせる。
そんな隙をもう一人が見逃すはずもなく、炎の魔法が撃ちこまれる。
対応が間に合っていないエルフに魔法が届く瞬間、甲高い金属音のような音が辺りに響く。
体勢を崩した生徒の周りに、一瞬、光の膜のようなものが現れた。
それが炎の魔法から身を守ったのだろうか。
光の膜が身を守るのに合わせて、体勢を直し、再び魔法の撃ち合いが始まった。
「あ、やっぱりここにいた!」
屋上の入り口から声が聞こえてきた。
振り返ると、そこにはノルンがどこか焦ったように息を上げていた。
「うーっす」
下のエルフ達の魔法に集中していたせいか、割と適当な感じに返してしまう。
「うっすじゃないよもう…」
走って来たからなのか息を整えるノルン。
普段あまり走っていないのだろうか、落ち着くまで時間がかかる。
落ち着くまで改めて下に居るエルフ達を眺めていたため、ノルンが横までやってくる。
「あ、ちょうど見てたんだね」
下を確認したノルンがエルフ達の魔法の撃ち合いに気づいたのか言葉を漏らした。
「ちょうど?」
「そうだよ、何かしたの!?」
明らかに何かあった剣幕でノルンが距離を詰めてきた。
「何かってなんだよ、ってか落ち着け」
「あぁ、ごめん…」
距離を空けてノルンが深呼吸する。
「とりあえず、説明するね。今下でやってるのが『決闘』って言われてる実戦形式の競技なんだけど、授業でもやってるんだ」
決闘、ねぇ。
確かに一対一でやるスポーツみたいな感じに見える。
魔法の学園なのだ。授業でやってるのも納得だ。
「その決闘の授業で、アキトが対戦することになってるんだよ!」
……は?
「…………は?」
あまりの突拍子のなさに、内心での反応と同じように声が漏れた。
「いや疑問なのはこっちなんだよ! なんで急にアキトが決闘に出ることになってるのさ!」
何でと言われても心当たりが思いつかない。
アウラの計らいか? いやだとしたら今日の授業の時に何かしら言ってくるだろうし、何か別の――
「しかも相手があのエレア・アインスなんて!」
……あー。
「ごめん、もう一度聞いていいか、誰が相手だって?」
聞き間違いかもしれないことを考えて、ノルンの言葉を遮ってもう一度聞いてみる。
「相手が、エレア・アインスなんてって……」
エレア。
昨日の今日、どころではない。
昼休みに聞いた名前である。
「え、知ってるの?」
俺の反応に察したのか、ノルンが首を傾げる。
「……昼休みにちょっと、揉めた」
起きたことを丸々説明するのは気恥ずかしくて、端的に口にする。
流石に直接何したかなんて言えねぇ……。
「あー、揉めちゃったかぁ……」
ノルンも深くは追及せずにいてくれたが、文字通り頭を抱えていた。
「とにかく、何かの間違いなんじゃないかって思ってたけど、そうでもないんだよね?」
「……多分」
あいつらに悪いことをしたとは全く思っていないが、気に食わないことをしたのは恐らく間違いないだろう。
「……分かった、色々説明もしたいし、一度部屋に戻ろうか」
色々と納得がいってなさそうではあったが、ノルンがため息と一緒に提案してくる。
確かに話を聞いた方がよさそうだ。
それから俺とノルンは食堂で飲み物だけもらって部屋に戻った。
「さて、と」
椅子に腰かけたノルンの体面に俺も座る。
「まず、『決闘』について教えておいた方がいいよね」
「頼む」
ノルンによると、『決闘』とは魔法使いが魔法の戦闘力を比べる競技というか、昔からある対決方法なのだそうだ。
一対一で対峙して魔法の応酬で実力を決める物らしい。
競技としてのものらしく、実際に怪我をしないよう身に着けるものにブローチがあるそうだ。
屋上で見た光の膜が貼られており、範囲外から魔法を3度受けるとブローチにはめられた魔力がこもった鉱石が割れる。
その鉱石が割れた時点で負けになるのだという。
「……うん?」
「……気づいた?」
「魔法が使えない場合どうすんの?」
「そもそも攻撃にならないんだよ……」
勝ち目なくね?
俺が根本的な問題に気づき、ノルンと目を見合わせていたところ。
コンコン、と部屋の扉がノックされた。
「? 誰だろ……」
ノルンが席から立ち入り口へと向かう。
こんな時と言っては何なのだが、何ともタイミングの悪い訪問だ。
だが、タイミングが実はばっちりだった。
「おっす秋人」
「アウラ」
ノルンと共に姿を見せたのはアウラだった。
少しだけノルンの方を見て、「まぁいっか」とフードを外すアウラ。
「面白そうなことになってるじゃないか」
からからと笑いながら、アウラが壁にもたれかかる。
「聞いたぞー、アインスのとこの娘と『決闘』するらしいじゃないか」
何がそんなにおかしいのかと聞きたくなるが、事実らしいので変に反撃もできない。
「臨時講師とは言ってもお前の担当官だからな。助けに来たぞ」
自信満々な表情のアウラ。
と言われたところで、俺が魔法を使えない以上、勝負にならないのではないのか。
「まさか一時的に魔法が使えるようになる方法でもあるのか?」
「んな便利なものはない」
ないのかよ。
「『小さな灯り』が使えないんじゃな。そもそも魔法を扱える体質じゃないんだろう」
「あー、やっぱりダメだったのか……」
はっきりと魔法が使えないことを伝えていなかったノルンも今の会話で察したのか額を押さえていた。
「はっはっは。そう考えているだろうと思ってな、だからこそ来た」
? 随分ともったいぶった話し方だ。
一体何を言いに来たんだ、と口を開こうとしたところで、アウラの人差し指がこちらを制止するように立てられる。
「確かに『決闘』に使われるブローチは4類以上の『魔法』によってしかダメージを受けない」
だから魔法の使えない俺では勝ち目がないという話になっている。
「だが、だからこそこう言ってやろう。『ブローチが受けるダメージは誰が起こした魔法でも問題ない』とな」
「「はぁ?」」
思わずノルンと同じタイミングで声を上げてしまう。
「エレアの魔法をエレアに返せってか……?」
言われてパッと思いついたことを口にする。
「うーん、そうではない、『相手の力を利用しろ』とは言ってない」
そう言われ、ノルンの方をちらりと見る。
「いや外野からの攻撃なんてもちろん無効だよ……?」
「だよなぁ」
「はっはっは。悩め悩め、自分で考えることに意味がある」
それだけ言って、俺たちの悩む姿を楽しんだ後、アウラは部屋を去っていった。
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