N極単極子ビームの嵐

ドン、と衝撃が突き上げた。

「な、何をした?」

降り注ぐ土砂にビフォーが狼狽える。

「同じことを二度いわせるな」

ジゴワット博士はぶっきらぼうに告げた。

大地の奥底を陽光が切り刻む。「き、貴様、単極子ビームを発射済みだといったな?」

「そうだ。ビフォー。あの時だよ。ビームは単にファエトンを薙ぎ払っただけじゃない。私の全てを賭けたんだ。『悪のマッドサイエンティストの半生そのもの』をね…」

「どういう事だ?」

「N極単極子がペアの片割れを事実上、無限の彼方に放置している事は周知の通り。私は悪役として歩んできた過去――世界線を単極子に紐づけして、この時代、この場所へ撃った!」

「つまり?」

息をのむビフォー。

「私はいま、ここに、正義の科学者として覚醒するッ!!」^

白衣を脱ぎ捨て、深紅のジャケットを翻すビザール。背中にジゴワットのロゴが眩しい。内ポケットからロッド棒を抜き、さっと伸長する。電光石火でビフォーの部下を叩きのめし、花子に白衣を羽織らせる。

ワンテンポ遅れて未来からN極単極子ビームが届いた。ジゴワットが働いた数々の悪事で光条が漆黒にそまる。それが部下の残党やアイドリング中のファエトンに憑依し、ビフォーを集団リンチする。

「$#&!!!」

束の間の断末魔。続いて甲虫そっくりな機体が地下空洞に実体化した。

「急げ!崩壊するぞ」

ゴキブリ人間達が反トランスヒューマニスト達を誘導する。基地関係者の全員が機内に退避した。完了した機体が次々と虚空に溶けていく。

あとに意識不明のビフォーが残った。それも崩れ落ちる岩に埋もれた。


◇ ◇ ◇

「行っちゃうんですね」

ジゴワットの背中が残照に染まっている。

「研究テーマを探さなきゃな…」

ビザール・ジゴワットはカマドウマンに飛び乗った。

「戻って来てくれますよね」

反トランスヒューマニストのうら若き新指導者は目じりを濡らした。

「かかあ天下を見ただろう。君たちの時代だ」

正義のサイエンティストはにっこりとほほ笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Mrs絶好調とジゴワット博士 水原麻以 @maimizuhara

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る