未来への咆哮
「うそ…こんなにも…ひといきれが温かいなんて…」
花子はひんやりとした洞窟特有の空気とは真逆のものを感じた。
地下百メートルの花崗岩をくりぬいたアジトは反乱軍の力では造成できない。奥セイウチ渓谷を穿った技術の応用だ。
「ジゴワット博士のお力添えいただいたおかげで、私達はどうにか生き延びています」
アジトのリーダーがビザールを褒めちぎる。そして、素早く拳銃を突きつけた。
「ビフォーさんの手を焼かせるんじゃねえよ!」
屈強な数人に組み伏せられ、後ろ手を縛られる。花子もベリベリとセーラー服を剥がされ、ビキニショーツ一枚にされる。
そして、真打が登場した。
「鬼ごっこは終わりだ。おい、そのマシンを爆破しろ」
鶴の一声でカマドウマンが火だるまになった。丹精を込めて組み上げた科学の粋が木端微塵になる。「ひどい…」
あまりの仕打ちに花子は言葉を失った。殴る蹴るの暴行を受け、ぐったりしたビザール。それを両脇から無理やりに反乱兵達が支える。
「気分はどうだね?マッドサイエンティスト」
ビフォーが息も絶え絶えの弟に心境を問う。
「…そう来ると思ったよ。あんたらしいな…」
ジゴワット博士はペッと血の混じった痰を吐いた。
「お前には死んでもらう。頭脳を惜しんで命を助けるなど寝首を搔くチャンスを与えるも同然だからな。どうだ?」
たっぷりと芝居がかった仕草を見せつける。
「もう全員、死んでいるよ」
ビザールは棒読みで答えた。
「N極単極子ビーム砲も存在確率増幅装置も鉄屑になったぞ」
「もう撃ったよ。それに製造法も予備パーツもあるべき場所にちゃんとある」
「とうとう気が狂ったか!」
平然としたそぶりにビフォーは同情を禁じ得ない。
「私は正常だ。ビフォー、あんたがゴキブリ人間達にヒトラーの都市伝説を与えて、廃墟に文明を築かせただろう。彼らはひたむきだ。嘘偽りの教えだと半ばしりつつ、懸命に将来を開拓している。だから、私は彼らに託したんだ」
「出鱈目を言うなっ!」
ジゴワット博士はふるふると首を振った。そして、兄に憐れみの視線を投げた。
「総統宮殿周辺のスクラップだよ。存在確率増幅装置で私の研究所と紐づけておいた。そして、あんたが据えた総統のアバターにも細工を施してやった。今頃は卍模様のエリート達がカマドウマンを量産しているだろうよ」
それを聞いて花子はパッと表情を明るくした。
「そうか、あの時…」
◇ ◇ ◇ ◇
窓際の壁に大人の身長ほどもあるトラバサミが立てかけてある。まるでクワガタムシの角のようだ。他にもロボットロボットした足が転がっており、何かの試作品のようだ。
「あれを前につけるとヤバいことになりますね?」
「どういう意味だね。絶好調」
「またまた…」
少女は必至で笑いを堪えつつ「このタイムカマドウマンが甲虫の王者に」
緊張をほぐそうと少女が冗談めかすと、博士が一喝した。
「ジョークでもそんなことは言うな。最近はいろいろと締め付けが厳しくなっておるからな」
◇ ◇ ◇ ◇
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