マッドサイエンティスト・ジゴワット
「ぬぅ。この私を阻む者がいるだと?」
科学者は圧倒的な数のタイムマシンに目を見張った。航時原理のバリエーションは乏しい。必然的に構造が類似する。一目で彼は識別した。
時間と空間を自由自在に飛び回るタイムカマドウマン。それは衆生から「悪の存在」と疎まれ嫌われているジゴワットが自分なりの正義を具象化するために発明を強いられた作品だった。そう、仕向けられたのだ。
人々は計り知れない存在を本能的に恐れ、忌避する。ビザール・ジゴワットはルイジアナ州の移民系農家に育った。長男も次男もカルフォルニア州サリナスの有名農大を首席で卒業し、企業が経営する大規模農家の要職に就いた。米国の小作農は第二次世界大戦から減少の一途を辿っている。個人経営は副業に支えられている。三男坊のビザールは兄弟が放棄した農地を相続するか選択を迫られた。荒れ果てた土地に将来も未練もなく彼は無機質な思春期を過ごした。パソコンブームが到来したのだ。ムーアの法則が半導体を下落させコンピューターが庶民の手に届く価格になった。当時は納屋を改造した生産ラインで家庭内手工業的な製法で市場参入する零細業者が増えた。ビザールも時流に乗ろうとした。だが。保守的な両親が息子の起業に反対した。学生に何ができる、と。彼は食い下がったが農業と無関係な異業種を父母は嫌った。開拓魂はどうしたのか、とビザールは憤った。そして、カルフォルニアに向かった。兄達の鼻を明かしてやるためだ。ちょうど、勃興しつつあったシリコンバレーに就職したのだ。長兄二人の目と鼻の先で彼はそれなりに成功をおさめた。
だが、彼の興した小さなソフトハウスが大手企業に敵対的買収された。
苦心惨憺した発明を札束でひっぱたく。ルール無用の手段にジゴワットは憤った。
普通ならここで、反骨精神をむき出しに悪徳と闘うのであるが…。
彼はねじれた。
反則がまかり通る市場には反則で立ち向かう。ジゴワットは狂科学の道に進んだ。
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