カカア天下

どうやら、その「総統」は過去の人物の再現らしく不明瞭でぎこちない言動を繰り返している。話の内容は断片的で脈絡がない。ここが西暦2039年の延長上にある世界線だとしたら、世も末というしかない。

VRの総統はまるっきり出鱈目というわけでもなく、昆虫人間の集団が破綻しない程度に指揮をしているようだ。時折、指導者層らしき個体に片言で命令している。応接間がある一角は彼らなりの政府として機能しているのだろう。

「総統官邸」の裏手は海だ。岸壁にびっしりとフナ虫が張り付き、触角でコミュニケーションしている。そしてコールタールよりも黒い波が岩場を洗う。


 父虫はそっとカマドウマンを拾い上げ、巣穴に運んだ。そこはちょっとした研究施設になっていて、出来損ないの人体がびっしりとホルマリン漬けされている。


(いい加減にそれを片づけてくださいな! 留守の間に捨ててしまいますよ!! それから、娘の巣にタイム・ホイホイを仕掛けないでくださいまし!!!)

 妻のヒステリーに父虫はキーキーと弁明した。

(待ってくれ。やっと能動的なタイムマシンが手に入ったんだ。コールドスリープのように消極的じゃなく、時間の流れに加速をつけて未来へ行く手段が。それさえあれば、俺達はもう一度、進化をやり直せる)

 必死の説得も馬の耳に念仏のようだ。今日という今日はといわんばかりに妻が鋏を振り上げる。貴重な標本が今にも割れそうだ。

(タイムマシンさえあれば、待つ必要はない。一足飛びに結果を見届けることができる。うわーっやめろってくぁwせdrftgyふじこlp)

がしゃんと何かが激しく砕け散った。



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