西暦2039年

「博士ェ」

 振り向くと数十メートル先に横転した車と少女の姿があった。


「花子君、無事だったか。しかし、これはどういうことだ」

 博士は助手の身体よりタイムカマドウマンのダメージが気になるらしい。ボンネットを開いて点検している。

「わかりません、私たちは西暦2039年のニホンに来たはずですが」

 花子がひしゃげた端末の電源を入れた。プツンという音がして陰極線が像を結ぶ。黒字に白いアラビア数字で2039と描かれている。

「私の計算に狂いはないはずだ。ナチスドイツのヒットラー総統が遺した予言通り、世界は二極化を極めておろう」

 博士は白衣からフラスコを取り出して、足元の水を汲もうとした。


 すると、バシッと火花が散った。

「のわっ!」

 博士がのけ反ると、花子が咄嗟に支えた。きついオゾン臭が鼻につく。

「博士、あれを見てください」

 花子は老人の肩越しに揺らめく高層ビル街を見た。鋭角的なデザインに無理やりドーナツを組み合わせたような、いかにもレトロフューチャーなたたずまいだ。

 丸めたポスターを引き延ばすように古典的な未来都市が出来上がっていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る