第16話 菜乃花の爆弾宣言


 陽が落ちて来ると、明日香の号令で花火が始まった。


 肉を十分に堪能したあおいも、みぞれやしずくたちと一緒になってはしゃいでいる。


「楽しそうだよな、あおいちゃん」


「そうね。あの子、基本的に能天気だけど、仕事中は結構いっぱいいっぱいになってるから。今日一日見てたけど、やっと本当のあおいを見れた気がするわ」


「ははっ」


「何?」


「いや、なんだかんだでつぐみ、あおいちゃんのことを見てくれてるなって思って」


「そ、そんなんじゃないから。私はただ、同僚として彼女を観察してるだけよ」


「分かった分かった、そんなにムキになるなって。ほら、つぐみも。一緒にやらないか?」


 そう言って直希から渡されたのは、線香花火だった。


「好きだったろ?これ」


「……覚えてたんだ」


「当たり前だろ。何年付き合ってると思ってるんだよ」


「全く……変なことばっかり覚えてるんだから……」


 火をつけると、優しい火花が二人を照らした。


「勝負するの、久しぶりだな」


「今まで私の全勝。直希はすぐ落としちゃうんだから」


「集中するのが難しいんだよ、これって…………あ」


「はい、また私の勝ち。ふふっ」


「ははっ」


 直希が立ち上がり、大きく伸びをした。


「そろそろお開きかな」


「そうね。みなさんも疲れたと思うし」


「そう言うお前もだろ。今日はもういいから、みんなと一緒に部屋に戻れよ」


「いいわよ。どうせ直希、この後一人で片付けるつもりなんでしょ。私も手伝うわよ」


「いいよこれぐらい。大きいやつは明日片付けるし」


「私がしたいのよ。このまま朝まで放っておくのが我慢出来ないの」


「じゃあ頼むよ。おーいみんなー、そろそろお開きにしようか」


「は、はいです直希さん。ごめんなさいです、私、なんだか今日一日、ずっと遊んでましたです」


「今日はお休みだったんだから、気にしなくていいよ。それよりどう、楽しかった?」


「はいです!こんなに楽しかったの、初めてです!」


「よかった。明日香さんは……大丈夫?」


「うう~っ……飲み過ぎたし、はしゃぎ過ぎたし……ちょっとだけ気持ち悪い」


「じゃあ早く部屋で休んでね。みなさんも最後まで付き合ってもらって、ありがとうございました」


「いいのよ直希ちゃん。私たちもこんな賑やかな夜、久しぶりで楽しかったわ」


「ありがとう、山下さん。生田さんも、西村さんの監視、ありがとうございました」


「……ああ」


「ナオ坊、何度も言ってるが、わしは楽しそうな彼女たちを見ていただけで」


「はいはいそうですね。西村さん、今夜は明日香さんも泊まりますけど、くれぐれも変なこと、しないでくださいよ」


「厳しいのぉ、ナオ坊は」


「直希、それじゃあわしらはこれで」


「あ、じいちゃんばあちゃん、ちょっとだけ待って。いい機会だから、ここで報告しようと思うんだ」


「あら、そうなの」


「うん。本人たっての希望」


「直希、報告って何よ」


「ああ、それは本人から直接な。菜乃花ちゃん」


「……は、はい……」


 菜乃花がうつむいたまま、直希の元へとやってきた。


「えーっと、菜乃花ちゃんからみなさんに、お伝えしたいことがあるそうですので、どうか聞いてあげてください」


「ちょっと菜乃花、どうしたの」


「なのっち、何かあった?」


「ほらほら菜乃花、頑張って」


「……おばあちゃん……うん、分かった」


 菜乃花が小さく息を吐き、みんなの方を向いた。




「あの、その……私、小山菜乃花なんですが、明日からその……おばあちゃんと一緒に、あおい荘に住むことになりました」




「……」


 言い終わると恥ずかしさの余り、両手で顔を隠した。


「え……」


「ええええええええええっ!」


「ちょ、ちょっとなのっち、どういうことどういうこと?何がどうなってそんなことになってるの?」


「な、直希!あなた知ってたのよね、どうして言わなかったのよ!」


「菜乃花ちゃんから口止めされてたんだよ。てか何でお前が興奮してんだよ」


「するわよ普通!大体小山さんの部屋は一人用よ。二人で住むには狭すぎるでしょ」


「だから明日、二人用の部屋に引っ越すんだよ。じいちゃんばあちゃんの向かいの部屋。菜乃花ちゃんの荷物も明日、昼頃に到着」


「でも菜乃花、あなた高校は?高校はどうするのよ」


「いえ、その……ここからでも通える距離なので、その……」


「菜乃花ちゃんがおばあちゃんっ子だってこと、つぐみも知ってるだろ?だから菜乃花ちゃん、ご両親の許可をもらうために頑張ったんだよ」


「ちょっとなのっち、なのっちまで抜け駆け?それじゃああたし以外、みんなあおい荘の住人に」


「明日香さんは仕方ないでしょ。みぞれちゃんやしずくちゃんもいるんだし」


「菜乃花さん菜乃花さん、私嬉しいです!これからもっと、仲良くしてくださいです!」


「は、はい……私こそ、よろしくお願いします」


「菜乃花ちゃんも、仕事を手伝ってくれることになったんだ。勿論受験生だし、学業優先だけどね。それでも立派な、あおい荘の従業員」


「やられた……やられちゃったよ……まさかなのっちが、こんな行動派だったなんて……」



「あのその……みなさん、これからよろしくお願いします」

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