第14話 女たちの闘い


「やっと見つけた。直希あなたね、離れるなら声ぐらいかけなさいよね」


「ああ、悪い悪い。菜乃花ちゃんを探してたんだ……って、お前こそ菜乃花ちゃんをほったらかしにして。一緒に遊んでやれよ」


「あ……あの、直希さん、その……私のことはいいですから」


「……そうね、悪かったわ菜乃花。折角みんなで来てるんだから、一緒に遊ばないとね」


「そんな……つぐみさん、謝らないでください」


「いいんだよ菜乃花ちゃん。つぐみが素直に謝るなんてこと、そうそうないんだから。こういう時は受け入れてやって」


「何よ、人がちゃんと謝ってるのに」


「あおいちゃんは?」


「あおいがね、お腹が空きすぎて動けないんですって」


「電池、もう切れちゃったのか。分かった。菜乃花ちゃん、ちょっと早いけどお昼にしようか」


「はい」


「それで?あおいちゃんはどこに」


「あれよ」


 つぐみが指さす方向を見ると、砂浜で倒れているあおいの姿が見えた。


「……流れ着いた遭難者みたいだな」


「さ、早く行きましょ。でないとあおい、食べ物につられて男たちに持って行かれるわよ」


「……だな」




「ほらほらあおいちゃん、誰も取らないから、落ち着いて食べてね」


「はいです……むぐむぐ……」


「……やっぱ、聞いてないよな」


 パラソルの下、4人での昼食タイム。


 海の家で、焼きそばの香ばしい匂いに心奪われたあおいは、捨てられた子猫のような顔で直希を見つめた。


「食べたいだけ、頼んでいいよ」


「本当ですか!」


「う、うん。遠慮しなくていいよ」


「ありがとうございますです!あ、あのおじさん。焼きそば10人前、お願いしますです」


「あいよっ……ってお嬢ちゃん、まさかあんた一人で食べるのかい」


「はいです。お腹ペコペコです」


「あ、いや……買ってくれるんだから文句はねえんだけどな、いくら何でもお嬢ちゃん、そのちっこい体で10人前は」


「おじさん、この子なら大丈夫。残したりしないから」


「と言ってもよぉナオ坊、いくら何でも」


「いや本当に。多分足りないから、後でまた買いに来ると思うよ」


「……マジか」


「うん、マジ……」




「むぐむぐ……むぐむぐ……」


「そろそろ食べ終わりそうだけど、あおいちゃん、まだ食べれそう?」


「はいです……むぐむぐ……海で食べる焼きそばって、こんなにおいしいんですね」


「じゃあ、つぐみと菜乃花ちゃんがキブアップみたいだから、これも食べていいよ」


 そう言って、おでんにとうもろこし、焼きおにぎりをあおいの前に置いた。


「いいんですか!」


「え、ええ……私たちのことは気にせず、好きなだけ食べていいわよ」


「も……もう動けない……」


「何ならあおいちゃん、ラーメンも買ってきてあげようか」


「ラーメン!はいです、食べたいです!」




 昼食後、あおいたち三人は砂浜で城を作っていた。

 あおいが砂を集め、菜乃花が水を含ませ形を整えていく。つぐみは割り箸を使い、器用に装飾をしていく。


「あの三人、なんだかんだで息が合ってるよな。分担も出来てるし、これは中々……」


「ダーリーン、お・ま・た・せ」


 声に振り返ると、明日香が立っていた。


「明日香さん、お仕事お疲れ様でした」


「全くよー。こんな天気のいい日に配達だなんて」


「パパー」


「みぞれちゃんしずくちゃん、こんにちは。水着、可愛いね」


「ママー、パパにほめられたー」

「ほめられたー」


「うんうん、よかったね。それじゃあ最後に、ママの水着も褒めてもらおうかしら!」


 そう言って、明日香がパーカーを勢いよく脱いだ。


「おおおおおっ!」


 胸元が強調された黒のハイレグタイプ。見事なプロポーションと相まって、男たちのボルテージは最高潮に達した。


「ちょ、ちょっと明日香さん、それはいささか際ど過ぎませんか」


「ちょっとちょっとダーリン、あんたの為に選んだ水着なんだからさ、恥ずかしがらずにちゃんと見てよ」


「いやいや、流石に刺激が強すぎるって」


「むふふふっ、ダーリンは本当、純なんだから。じゃあその純坊に、お姉さんからのオ・ネ・ガ・イ。オイル、塗ってくれないかな」


「ええええええっ!いやいや無理だって」


「いいじゃんいいじゃん。さっきまで仕事だったお姉さんに、ご褒美くれてもいいと思わない?」


「何のご褒美、と言うか駄目だって。みぞれちゃんしずくちゃんもいるんだよ」


「二人がいいならいいのね。よし、みぞれしずく!ダーリンにこれを渡すのだ!」


「はーい」

「はーい」


 みぞれとしずくが、明日香から受け取ったオイルを直希に渡した。


「パパー、ママにこれ、塗ってー」

「塗ってー」


「無理無理無理無理。明日香さんも、子供をそんなことに使わないの」


「いいじゃーん。さ、ダーリン、せ・な・か、から……あいたっ!」


「何やってるのよ明日香さんは」


「つぐみーん、突っ込みはもうちょっと優しくってば」


「何言ってるのよ、こんな小さい子供の前で。教育に悪いでしょ」


「ははぁーん、さてはつぐみん、自分が塗ってほしいんでしょ」


「なっ……ば、馬鹿なこと言わないでよ。それに私たち、朝からずっといてるんだし、今更でしょ」


「またまたツンツンしちゃって。駄目よつぐみん、そんな赤い顔してたら、そうですって言ってるようなものよ」


「明日香さん、来ましたですね」


「おお、アオちゃん。アオちゃんもオイル、塗ってもらう?」


「え?何の話ですか」


「なのっちも塗ってほしいよねー」


「え……わ、私はそんな……」


「あははははははっ、よーし、そういうことならみんな!誰がダーリンにオイル塗ってもらうか、これで勝負しようじゃないの!」


 そう言って、明日香がビーチボールを持って立ち上がった。


「名付けて!オイルマッサージの権利をかけた女の闘い、その1!」


「なんてひどいネーミング……」


 つぐみが大きなため息をつく。


「それに何よ、その1って」


「だってこれから、ダーリンを巡ってこの4人、バトることが多くなるでしょ」


「待って待って、俺の意思はどこに」


「じゃあ始めるわよー、いっくよーっ!」


 突如として始まったビーチバレー。


 いつの間にか男たちが群がり、各々お気に入りの美女に歓声を送っていた。

 あおいと明日香がボールを打つと、歓声は一際大きくなる。


 勿論それは、彼女たちの揺れる胸元に対する歓声だった。

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