第13話 みんなで海水浴


「じいちゃんばあちゃん、それじゃあ行ってくるね」


「はい、いってらっしゃい。楽しんでくるんだよ」


「うん、まあ……あとおじさん、そんなに遅くならないようにしますので、しばらくの間みなさんのこと、よろしくお願いします」


「はっはっは、ちょっとそこの海に行くだけだろ?心配しなくても大丈夫だよ。昼の用意もしてくれてるし、私がすることも特にないさ。気にせず行ってくるといい。つぐみも今日のこと、楽しみにしてたからね」


「ちょ、ちょっとお父さんってば、変なこと言わないでよ。今日はあおいの歓迎会で、準備とかでバタバタしてただけなんだから。それに引っ越しもあったし」


「はっはっは、分かった分かった。じゃあ直希くん、よろしく頼んだよ」


「はい。では行ってきます」





 今日はあおいの歓迎会で、海水浴に行くことになっていた。


 メンバーは直希とあおい、つぐみと菜乃花。明日香は配達が終わってから、みぞれとしずくを連れて合流することになっていた。


 つぐみと菜乃花は二人で頭の上にビーチボートを乗せて、あおいは浮き輪、直希はパラソルを持っていた。


「あの……私までついてきちゃってすいません」


「何言ってるんですか菜乃花さん。私の方こそ、歓迎会なんてしてもらえて、本当にありがとうございますです」


「歓迎会って言うなら、私もなんだけどね」


「菜乃花ちゃん、そんなに気を使わないで。今日はみんなで楽しく遊ぶ、それでいいんじゃないかな」


「直希さん……は、はい。私、頑張ります」


「いやその……頑張るって言うのは、ちょっと違うと思うけど、ははっ……それに夜はあおい荘でバーベキュー。楽しみにしててよね」


「……直希さん私、お腹が空いてきたみたいです」


「ええ?あおいちゃん、さっき食べたばかりだろ?もう空いてきちゃったの?」


「いえ、その……バーベキューという言葉に、お腹が反応しちゃったみたいです」


「は、ははっ……まあ海の家に行けば食べる物はあるし、何ならそこで買ったらいいよ」


「はいです!では急いで行きましょうです!」





 あおい荘から出て、まっすぐ細い道を歩いていく。


 5分も歩くと道が開け、海が見えて来た。


「うわぁ……直希さん、海です海です!」


 目の前に広がる海に、あおいが興奮して声をあげた。


「当たり前でしょ、海に来たんだから」


「つぐみ、そんな身も蓋もない突っ込みは」


「すごいです!広いです!」


 直希とつぐみのやり取りも耳に入ってない様子で、あおいが一目散に走っていった。


「あおいちゃん、気をつけてね」


「直希あなた、あんまりあおいを子供扱いしないの。保護者気取りは…………あ」


 砂浜で足を取られ、あおいが派手に転んだ。


「だから言ったのに……ははっ」


「な、なるほどね。確かにこれは、目を離せそうにないわね」


「あおいさん、その……大丈夫ですか」


「は、はいです。ごめんなさいです菜乃花さん」


 菜乃花の手を取り、あおいが起き上がり笑った。


「この辺でいいかな。みんな、ここにパラソル差しておくから、荷物持ってきて」


「は、はいです」


 直希がシートを敷いてパラソルを差す。あおいたちはシートの上に荷物を置くと、はおっていたパーカーを脱いだ。


「おおっ」


 あおい、つぐみ、そして菜乃花の水着姿に、周りの男たちが歓声をあげる。


 三人共、この日に合わせて水着を新調していた。あおいは赤のビキニ姿で、腰にはパレオを巻いている。Dカップの胸ははちきれんばかりで、男たちの視線をくぎ付けにした。


「さあつぐみさん、菜乃花さん。泳ぎますです」


「あ、あはははっ……そ、そうね……」


「私……帰りたくなってきました……」


 つぐみは水色の、菜乃花は真っ白なワンピースタイプの水着。その清楚な雰囲気も、男たちの視線を集めるには十分だった。


 しかし二人は、あおいの破壊力に圧倒され、赤面して胸を隠した。


「どうしたんですかつぐみさん、菜乃花さん」


 あおいが二人の元へと駆け寄ってくる。動くたびに大きく揺れるその胸に、二人の顔はさらに赤くなった。


「つぐみさん……私、もうやだ……」


「わ、私だって……これって、何の公開処刑なのよ……」


 恥ずかしそうに胸を隠す二人に、男たちの歓声はさらに大きくなった。





「しかし今日も暑いよな」


 パラソルの下、麦わら帽子をかぶった直希は、ノンアルコールのビールを片手に三人を眺めていた。


 波打ち際ではしゃいでいる、あおいの笑顔はまぶしかった。ビニールボートに寝そべっているつぐみに水をかけ、笑っている。


「楽しそうだな。うちに来てから毎日忙しかったし、違う環境で大変だっただろうからな。やっぱこうやって、たまには羽根を伸ばさせてあげないと……従業員への福利厚生も、管理人の仕事だしな」


「つぐみさーん、えいっ、えいっ!」


「ちょ、ちょっとあおい、いい加減にしな……きゃっ!」


 ボートから起き上がったつぐみがバランスを崩し、頭から海に落ちた。


「ぷはっ!……もぉ、あおいったら」


「あははははははっ、つぐみさんびしょびしょです」


「もぉっ……おかえしよ、えいっ!」


「きゃっ!あははははははっ」


「なんだかんだでつぐみも楽しそうだな……って、菜乃花ちゃんはどこだ?」


 直希が辺りを見回すと、菜乃花は少し離れた岩場を散策していた。





「菜乃花ちゃん」


「ひゃっ!……な、直希さんですか」


「ごめんごめん、びっくりさせちゃって。ジュース持ってきたんだ、はい」


「あ……ありがとうございます……」


 頬を染め、嬉しそうにうなずいた菜乃花が、ジュースを受け取る。


「それで?何か面白い物でも見つけた?」


「あ、いえ……特には何も」


「そうなの?熱心に見てたから、何か探してるのかと思って」


「いえ、そんなんじゃないんです。ただその……私、海に来るのって久しぶりで、どうやって遊んだらいいのか分からなくて」


「それで岩場に?」


「あ、でも……ヒトデさん、見つけましたよ」


「え?どこどこ」


「ほら、ここに」


「おおっ、本当ヒトデだ。こんな岩の隙間に。なんか可愛いね」


「はい。さっきからずっと見てるんですけど、可愛すぎて目が離せなくって」


「菜乃花ちゃん、可愛い物に目がないからね」


「はい。可愛いは正義ですから」


「……それで菜乃花ちゃん。今夜、だよね」


「あ、はい……バーベキューの時に、皆さんにはお伝えしようと」


「そっか、分かった。あんまり緊張しないようにね」


「はい」

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