ブラックシリカ

任意聴取の末、祝ホームの担当者が事情説明をしてようやく解放された。「あんたのせいよ」御子は契約破談の件を責めた。小春に悪気はない。拘留中の理事長に接近する意図があった。その身柄は拘置所にあるが霊的な距離は縮まった、と妹は釈明した。

「で…何かわかったの?」

「トモは手練れよ。私達のせいだと彼に吹聴してる」

「はぁ?身から出た錆じゃん」

御子は呆れ果てた。

「作戦を練り直すわ」

「でもどうやって?物件には入れないし、あんたもエステ、首になったじゃん」

小春の職場にあるブラックシリカは重要な手がかりだった。

「貴女、あの石について何処まで知ってる?」

「北海道上ノ国町原産で癒し効果は抜群」

御子はエステの公式サイトを音読した。

「そうよ。でも古傷を癒すには乗り越える痛みが必要」

「トラウマって…山崎トモの同僚?」

「十字架は福子さんよ。だから美咲の優しさを支えにして克服しようとした」

「マンダレーの歌まで教えて、頑張ってたのにどうして?」

訝しむ御子に小春は怖ろしい事実を突きつけた。

「だから、石なの。黒鉛珪石って藻の堆積よ。何億年もの間、太陽の光を浴びて海底に降り積もった。莫大な生命力が潜在してる」

シリカが哲学的な生物だというのだ。ごくり、と御子が唾をのむ。

「美咲はゾンビだと言ったわよね?」

「ええ、トモも美咲も石に取りこまれてるの。姉さん。余計な事をしてくれたわね」

小春が眉間に皺を寄せる。

「どういうことなの!」

「あの石自体が鍵なの。そして文字通りロックが外れた」

そういうと、小春は配車アプリでタクシーを呼んだ。行先は祝ホームだ。

「どの面下げろっていうの?」

「姉さんの責任でしょ。まんまと利用された。霊力をテコにされた」

トモは除霊されるフリをして石を地縛から解放したのだ。

「ごめん…私に出来る事はある?」

姉はミスを認めた。

「汚い金の洗剤は昔から不動産と決まってるわ!さっさと霊視しごとしなさいよ」

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