死に水を過労死するまで汲むポンプ
「あっきれた!水増し請求だけでなく年金の着服まで」
「そういう噂は初耳だわ」
「小春ちゃん?」
ぎょっとして振り返ると妹が佇んでいた。その瞬間、通帳が崩れ落ちた。
膝丈の従業員姿のまま砂を拾い上げる。紙片すら残さず消えた。
「一寸、貴女…」
「霊の導きが正しいとは限らないわ」
小春いわく、美咲は常連客だった。疲れを揉み解す合間に愚痴を聞かされた。女性らしく金の悩みが中心だったが、施設の月給は悪くなかったという。「初任者研修済みで手取25万。上等よね」
「その原資が不正と着服…」、と御子。
「だからそれが嘘だっての」
妹は手厳しい。確かに介護職は出入りが激しい。3K現場の人手不足は厚遇では補えない。それでも破格の給与だ。
「口止め料かもよ。施設長にとっちゃはした金かも」
御子が老婆の肩を持つ。
すると小春は残念そうな顔をした。
「姉さんは何もわかってない。美咲は意識はあるけど意思がない状態だったの」
仕事のやりがいを自慢する美咲だったが来店する度に薄らぐ充実感が見て取れた。憑き物に使役されているようだ、という。
「そりゃそうでしょ。私腹を肥やす駒だもの」
「姉さんはそう視てる?私には別の物が見える」
小春は砂岩盤の向こうにぼうっとした青白い影を認めた。
霊の老婆だ。その瞬間、バタンと浴室が閉じた。
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