漂白された殺意

「掘り出し物ですよ」

まだビニールのついたソファに案内された。チラシの上でコップが泡立ってる。御子が内覧を希望した物件は先月で潰れた通所介護施設だ。若い女性ヘルパーの腐乱死体が近隣の山林で見つかった。防犯カメラや遺留品など犯人特定につながる物証はなく、遭難事故または自殺と断定された。その後、クラスター感染が発生し、そのまま廃業した。利用者が施設の再開を嫌がったためだ。「あそこに行きたくない」「引き摺りこまれる」と異口同音に恐れる。なかには拒む老親を説得中に急死した事例もある。「オカルト配信者のコワーキングスペースに最適だわ」

御子は芸能事務所設立を装って話を進めた。契約金はある。祈祷の稼ぎと親の見舞金だ。父親が脳梗塞で倒れた。保険会社と一悶着あったのだが、御子は外交員の背後に黒い霊を感じだ。そうまでして自分に縋りたい理由を探り、父を救う使命があった。法人の立ち上げは格安の代行業者に頼んだ。

「こちらの物件、かなりのいわくつきでしてね」

骸骨めいた痩せ男がもみ手する。御子は書類を一瞥し、サインした。

まとめブログで有名なマンダレーの唄が聞こえる物件。

御子はスマホをタップした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る