事故物件、はじめました。
駅前は激戦区だ。とりどりの制服が交差点を行きかうその先に不動産屋がひしめく。「事故物件、あります」「出現保証」そんなおどろおどろしい掲示が目立つ。好き好んで幽霊と同居したい、だなんて世も末だ。正式には心理的瑕疵という。事件事故自殺孤独死、この様なゾッとしない物件を入居者に通知する義務があることを逆手にとって一部の業者が大々的に売り出した。世はコロナ時代。在宅ワークが普及してあの手この手で空家を埋めようとSNSに助けを求めた形だ。ハプニングはいいね!の燃料になる。
特に幽霊が出る物件は動画配信の好材料だ。
「祝ホームか。タダ者じゃなさそうね」
昭島御子はチラシを再読した。霊媒師を辞めて事故物件バスターになった理由は単純明快。もう個人のお祓い程度では霊障を防げないからだ。悪霊をクラスターごと破壊しないと霊的災害のパンデミックが起こる。それほどまでに世間は病んでいる。コロナ禍で人心が荒廃し負の感情が相転移した結果、人が人を死ぬまで追い詰める事件が茶飯事になり、霊媒師を脅かし始めた。急増する個人依頼の類を全て断っても悪霊をひしひしと感じる。結界を張り、清め塩をまき、日に四度五度、水業をするため下着をビキニに変えて装束の下に纏っても、残留思念が祓えない。「何が、はじめました。よ」
御子は汗ばんだ背中に肩紐を透かせながら敵地をめざした。
祝ホーム。目下の主力商品は廃病院、グループホームだ。
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