補完編その2 エピローグに至るまでの(改心して侍女になるまでの)お話 俯瞰視点(6)

「ジュリエット、お待たせ。ここからは俺も一緒だよ」


 光を纏って現れたテオは、優雅に一笑。偽者と異なり爽やかさとクールさを伴い、口元を緩めました。


「て、テオ様っ。わたくしは……っ。わたくしの、せいで――」

「事情は、おおむね把握しているよ。……ジュリエットが君を助けたいと強く願っているし、なにより、今の君は心から反省しているのだろう? ならば俺の意思も、ジュリエットと同じだ」


 テオは小さく顎を引いて応え、マリィの口からは無意識的に「ようやく分かりましたわ……」と漏れます。


((テオ様は、実は……。わたくしの悪巧みを、本心を……っ。ずっと知っていたんですわ……っ!))


 よくよく考えてみれば、あんな馬鹿げた方法で見破られるはずがない――。ツインテールに丸眼鏡なんて素で思いつくはずがない――。あれらは、一種の方便――。自然に見えるやり方で作戦を潰しつつ、わたくしの改心を待っていたのですわ――。

 マリィはそう確信し、忸怩たるものを感じていました。

 実際はテオは素でやってのけていたのですが、そう確信してしまいました。


「ジュリエット。僕と君が力を合わせば、1足す1ではなくなるよね?」

「はいっ。その結果は、2ではありませんっ。無限大になりますっ」

「うん、そうだね。……偽者の俺よ。俺達の愛の力を刮目しろ」


 テオの手にもバイオリンが現れ、2人は並び立ちます。そして同じタイミングでスゥッと楽器が持ち上がり、始まるはアンサンブル。この国では誰もが知っている勇敢さと優しさを含んだ曲が、この場に響きます。


「はんっ、何かと思えばまたバイオリンかぁっ! 数が増えたところでおんなじぃ!! 俺には効きはしな――ぁが!?」


 鼻を鳴らしていた偽者テオの顔が突如歪み、異変は続く。頭を抱えるようになり、片膝をつくようになり、片膝が両膝となって、やがては蹲ってしまいました。


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! バイオリンが増えただけなのにぃっ!! どうなっているんだぁっ!?」

「説明したはずだぞ。俺達の場合は、足し算ではないとな」

「2ではなく、無限大です……っ。テオ様っ!」

「ああ。フィナーレの時だ」


 完全にシンクロしていた音色がぴたりと止まり、2人が揃ってオーディエンスに頭を下げます。すると偽者のテオの異変は過去最大級の規模となり、


「ぎぃあああぁぁぁあぁぁああああ!! くそぉぉぉ!! くそぉぉぉぉおぉぉぉ!! まりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 巨大な体がパァンと破裂し、偽者テオは粒子の如く霧散。それを切っ掛けとして周囲の景色も薄くなってゆき、


「マリィ、悪い存在はもう居なくなったよ」

「今後、悪夢に苦しむ事はないだろう。ゆっくり休むといい」


 ジュリエットとテオは穏やかな微笑みを残してその場を去り、マリィの夢もお仕舞い。意識の消失と同時に目を覚まし、彼女はむくりと起き上がったのでした。

 そして、起きた彼女は――

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