補完編その2 エピローグに至るまでの(改心して侍女になるまでの)お話 俯瞰視点(5)

「な、なんですの……。なにが起きてますの……。どっ、どうなりますの……?」


 マリィが唖然として声を漏らしている間も、変化は続きます。偽テオから昇る煙はやがて彼を包み込み、肥大。全身がみるみる膨らんでゆき、その三十秒後。マリィとジュリエットの前には、巨大化した――全長20メートルはある偽者のテオが、誕生したのでした。


「い、家より、大きい、ですわ……。なぜ、こんなことに……」

「どうしても、マリィとお話をしたいからだよぉ。あのままだと、#ジュリエット__そこの女__#に勝てないからねえ。勝てる姿に、なったんだよぉ」


 むっくりと起き上がり、立ち上がった偽テオ。彼はおぞましく口角を吊り上げ、2人を見下ろしました。


「ジュリエットぉ、さっきみたいにはいかないぞぉ。いかないぞぉ」

「偽者のテオ様、やってみなければ分かりません。……いきますっ」


 E線、A線、D線、G線。再び愛用の弓で以て洗練された音が響き渡り、ですが、先程のような変化は起きません。今し方もがき苦しんでいた偽者は平然としており、痛み一つ感じていませんでした。


「ほらねぇ。駄目だっただろう? ジュリエットぉ。俺はねぇ、こう見えても暴力反対なんだよねぇ。大人しく去るなら、見逃してあげるよぉ? どうするぅ?」

「ぁ、あの……。お、お姉、様……」

「大丈夫だよ、マリィ。私は貴方のお姉ちゃん。反省した妹を見捨てはしないよ」


 マリィが不安げに覗き込むと、返ってきたのは優しい微笑。ジュリエットはマリィの頭をよしよしと撫で、偽者へと向き直りました。


「へぇ~、へぇ~、そっかぁ。じゃあ~ぁ、やっつけちゃうよぉ? このまま踏み潰して、ぷちっと殺しちゃうよぉ?」

「…………偽者のテオ様、それは絶対に出来ませんよ。私が貴方に殺される事はありません」

「あははははっ、あははははぁっ! お前は、何を言ってるのかなぁ? 攻撃が効かないのに、負けないだってぇ? その根拠はなんだい? 教えておくれよぉ」

「畏まりました。…………貴方に、殺されない理由。それは」

「それはぁ?」

「私に危険が及ぶと、必ず助けに来てくださる人が居るからです」


 ジュリエットが自信を持って、そう告げた瞬間でした。#彼女の隣で__マリィの目の前で__#再び純白の光が発生し、そこから銀髪の美少年――テオ・スロスが現れたのでした。

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