武器商人

シモーヌ・ザザは殺害の動機を説明するが、リチャードにとって受け入れがたい内容だ。

「藩主が何をしたっていうんだ? 経緯は全部聞いた。だが、人を殺していい理由にはならないだろう」

エテュセをわが子のように引き取り、可愛がっていた男だ。確かに平定戦争の残務処理の為に相応の活躍をして、ある地域から魔物を一掃した。

その対象にテクセル軍に洗脳され身も心も魂の道徳すらも捧げて殺戮機械となり果てた黒エルフが含まれていたとしても。

ジョセフソン・カルナックは死闘の末に倒した魔物の素材に黒エルフが用いられていると後で知った。しかし、褒賞として与えられた領地の自主返納は王家の計らいに泥を塗る行為だとして禁じられている。

しかたなく、彼は酒浸り、ぐうたら三昧で家財を食いつぶし、お取り潰し御免と相成ったのである。

もっとも、全部が全部無駄遣いというわけではなかった。ほんの少しの心づかいであるが、身寄りのないエルフに養育費を寄付していた。

「俺が来たからか!? 俺とさえ出会わなければ死なずに済んだのか?」

リチャードはやり場のない怒りを拳に込めた。クワンと鉄格子が唸る。

「いいえ。藩主が貴方を弟子にしなければ別の有能株が入門し、やはりオルドスが彼を亡き者にしたでしょう。ジョセフソン・カルナックはあなたのような逸材に稽古をつけて、相応しいリベンジ屋をしようと考えていました」

「なぜ?」

「彼なりにテクセルを、いや、悪しき方向に進みつつある人の世を治療しようという焦りがあったからです。リベンジ屋を束ね、決起の時にそなえていました」

「じゃあ、ドン・エンプーサってのは」

「武器商人です」

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