禁忌
「その男のいう事を信じるな! 人間を信じるな!! やつらはずる賢い」
エテュセの脳裏にイミルワが点滅した。
「パパ!」
彼女は返信しようとして、ヴァルキュリアの存在に気付いた。
魔法に長けたメドトロニックの森をものともしない女戦士たちである。イミルワの裏技を見逃すはずがない。
「お前は黙って聞きなさい。お父さんのイミルワは感受性の低い人間には届かない…うぐっ」
父親の苦悶を魔法の灯りが代弁している。今にも消えそうな弱々しい炎。彼は今も別室で拘束されているらしく、手足首の痛みが伝わってくる。
「メスト・エジルは出鱈目を並べている。たしかにドン・エンプーサの有閑マダムはエルフと戯れていた。しかし、相手は成人男性じゃない。エルフの子供だ」
どういうことなのか。
彼が言うには、エルフの子息はカムフラージュとして連れてこられたものだ。正確には王立軍が森にヴァルキュリアを遣わして誘拐したものだ。
目的はメドトロニックの民を分断することと人口減少に拍車をかけるためだ。
「そんなことをして誰の得になるの。黒エルフと王都の人間の反感を買うだけじゃない!」
「大いに意味があるんだ。メドトロニックの民がいよいよとなれば死に物狂いで種族を存続させようとするだろう」
「なりふり構っていられない?」
「そうだ。なんとなれば祖先の禁忌も開封するだろう。それがトホホギスの狙いだったんだ」
「禁忌ってなに?」
「科学だよ! 魔法よりも邪悪で厄介な代物だ。うかつに扱えば制御が利かない。太古の先達たちが苦心惨憺して多くの犠牲を払って、ようやく魔法に洗練したんだよ」
科学。聞いたことのない単語だが、耳障りでおぞましい響きだ。
「まさか、トホホギスは科学を用いて」
「ああ、テクセルとすべての魔物を滅ぼすつもりだ」
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