戦艦ウッドワン、出港

そして、男は魔剣を大上段に振りかぶった。「ひぃっ」と大の男たちが凝固する。そして生首がじろっとこっちを睨んでいる。

彼らに見せつけるように魔剣を演舞したのち、こう叫んだ。

「これはハッサンの分だ!」

ぐしゃっと嫌な音をたてて骨が潰れる。オルドスを暗殺した男はマントで返り血をぬぐうと名乗った。

「俺だ。ハンザだ。今日この瞬間から俺がかしらになる」

こうして、下剋上と友人の復讐を果たした男はオルドス団をそっくりそのまま継承した。


「オルドスから伝言を預かってる」

何食わぬ顔で例の酒場を訪れたハンザは、騒動の詫びだと言って酒樽と金貨を積み上げた。

きょとんとする主人に彼は偽りの顛末を聞かせた。オルドスは飲み過ぎで先ほど死んだと。

ただ息を引き取る前に罪滅ぼしをしたいと言い残した。

それを聞いた主人はたいそう感銘を受けたらしく「オルドスさんの遺志はわたしが継ぎましょう。いい人だ」と泣きぬれた。


「これでゲロルシュタイナーはバソトシン直轄領に流通する。それはトホホギス王家の食卓にもいずれ並ぶだろう。臣民の模範となるべき指導者が喰らうのだ。偽りの肉を」

ハンザはオルドスのはかりごとを続行するはらづもりだ。そして驚くべきことに、彼の後ろからヌッと現われいでたのは——。

「「「「ハッサンさん」」」

部下たちは目を白黒させた。無理もない。オルドスに斬首されたはずの男がピンピンしているのだから。

「ようよう! おめーら!! 何をビビってやがんでぇ!!!」

陽気なお調子者が見知った仲間に声掛けするが、彼らは青ざめるいっぽうだ。

「その辺にしておけ。状況を飲み込めない者もいるだろう」

ハンザは噛んで含めるように教えた。

彼ら二人は——いや、斥候を含めると十名を超えるだろう——はグレイバス監獄を生きて拝むことに成功した。

偵察部隊は命がけで得た情報を無事に持ち帰ってこそ、の物だねなのだ。

平定戦争を生き延びた精鋭中の精鋭で、王立軍が縮小されてからはリストラという名の粛正から逃れるべく、落ちのびて野盗の群れに合流した。

トホホギス軍の護符をハッキングするなど造作もない。そして、首尾よく潜入を果たしたものの。そこで待ち伏せに遭った。

全員が捉えられ、容赦なく斬り捨てられ、無残な遺体は殺人鯨の餌になった。

しかし、話はそれで終わらない。なんと、彼らにそっくりのホムンクルスが用意されていたのだ。

何食わぬ顔でオルドスの船に帰投し、本物のハッサンを始末して入れ替わった。

「オルドスはリチャードを奪取しようとしていた。自分が王になるために」

ハンザ——を詐称する人造人間はこう、うそぶいた。

「では、誰が。もちろん、あなた様ですよね?」

偽のハッサン——これで三人目だ——が手もみする。

「世辞はいらん。王にふさわしいお方は別におられる」

そういうと、ウッドワンの出港準備を命じた。

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