リベンジの第一歩

獄中不穏分子の慰み物として尋問とは名ばかりの私刑を受けるにつれて、リチャードの内面が徐々に変化している。

偶然にも彼は地球人類史の西洋暗黒時代に行われた異端審問における魔女と同じ経緯をたどっている。

ここ異世界と言えど、人の営みが織りなす複雑怪奇な因果は、それを為す者の思考回路が似ているがゆえに、それほど違いはない結果をもたらす。

端的に言えば、彼はウィッチとしての才覚に目覚めたのだ。

エテュセに思いを馳せ、いつか娑婆に出る日を思い描くうちに人間誰もが平等に内包する第六感が開花した。

「シモーヌ・ザザと申します」

肉体再生の担当者はメドトロニックの森出身の幼いエルフだった。とはいっても、年のころは十四、五。花も恥じらう女の子である。

彼女がグレイバス監獄にいる理由は頑として語らない。拷問明けの治癒タイムに言葉を交わすチャンスはあまりにも少ない。

それでもシモーヌはリチャードに簡単な魔法を伝授した。イミルワというレベル1マジックであり、駆け出しの冒険者が地下迷宮を照らすためにある。読み書きができる知能があれば、容易に会得できるレベルのものだ。さいわい、リチャードは戦士として戦歴経緯書を雇い主に提出し、然るべき査定を受けるために文字を学んでいた。

もっともイミルワは松明3時間分の効力しかない。実戦ではほとんど役に立たぬ魔法がどうして、とリチャードは憤慨したが、ここでも昔の経験が役立った。

あるパーティーの救助に向かった時、初心者の魔導士がこうつぶやいていたのだ。「仲間の…イミルワが…早く」

息も絶え絶えに何度も繰り返す、その言葉の意味を彼は察した。イミルワの残量をパーティーで情報共有できる。

確かに、その機能があれば魔力点を上手に融通しつつ迷宮を探索できる。

イミルワのオンオフはその場にいる能力者全員に伝わるので、シモーヌは符号に転用できないかと考えたらしい。

「符号か…」

そこでリチャードは手っ取り早くルーン文字を最初から数えて何番目かという位置情報を交換する事にした。

シモーヌはもちろん、魔導書が読める。


こうして、二人は看守どもに気づかれる事なく通信手段を確立した。

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